(『人間革命』第10巻より編集)
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〈険路〉 26
「実は、今の東京の状態が、困ったことになっている。
誰の責任かということになれば、・・・、結局は、会長としての私の責任ということになるだろう。
だから私は、誰よりも今の事態がよくわかるのです。
澤田が、奮戦していないとは言えない。
みんなも、戦っているつもりでいるだろう。
ところが、客観的に見るならば、大阪とは大変な違いです。
大阪の戦いには、爆発するような歓喜が渦巻いている。
東京は、何か、よどんだまま、なかなか渦が起きてこない。
いくら世帯数が多いからと数に頼っても、本当の戦いにならない限り、面白くない結果になるというものです。
私は、ここ数日、考えに考えた。そして、ここで澤田良一を討ち死にさせたくないと思った。
このままでは、澤田は板倉重昌のように討ち死にに追いやられる。今が限度だと思うのです。
そこでだ。私は、一つの決断をせざるを得なくなった。
澤田は、東京の地方区の責任者にとどめ、東京の全国区を、・・・に任せて、この二人の上に、東京の総指揮を執る最高総責任者として石川幸男をもってこようと思う。
澤田、君はこれに不服か」
澤田は、これを耳にした瞬間、”無念だ”と思った。
しかし、われ知らず追い詰められ、時に死さえ考えていた澤田には、戸田の一言は、暗夜の稲妻のようにひらめいた。
”戸田先生は、私の胸中を、すべてご存じだったのか!”
彼は、詫びるよりほかに、どうしようもなかった。
戸田は、沈滞する東京にあって、あえぐように奮戦していた澤田から、板倉重昌、・・・ 五重塔の由来を連想した。
そして、この故事を説き起こすことから、組織の大変革を、無理なく納得させようとしたのである。
青年たちは、初めて戸田の深慮を知り、一人の青年幹部の進退にまで、かく心を配る姿を目前にして、感動した。