(『人間革命』第2巻より編集)
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〈前哨戦〉 2 完
何ごとか、と彼らは、怪訝(けげん)な顔つきで立ち上がった。
「日蓮大聖人の仏教の真髄を、ひとかけらでも身につければ、いかなる教団の教義も、問題ではないのだ。
勝負は初めから決まっている。それを、いかにも自分たちの力でやったように、手柄話をする者がどこにいる。道場破りの根性はいかん。英雄気取りはよせ」
「- いいか、広宣流布とは、崇高な仏の使いの戦いなんだ。
他教団の本部だから、特別な折伏行だなどと勘違いしては困る。
一婦人が、相手の幸せを思い、真心を込めて対話し、隣家の人を救う方が、よっぽど立派な実践です。
今は、将来、真実に人々を救い、指導していけるだけの力を養っている訓練段階だと思わねばならない。
将来の本格的な広宣流布のための実践と、そんな、遊び半分のようなものと思っていては大変だ。三類の強敵との壮絶な戦いなのだ」
同じ折伏の行動であっても、その一念は、人によってさまざまである。真心の折伏もあれば、英雄気取りの言説もある。
戸田は、それを見抜いていた。
「自己の名誉のみを考え、良く思われようとして、活動する人物であれば、所詮は行き詰ってしまう」
そうして、うなだれている青年たちに言った。
「戦いに勝ったと帰って来て、泣く男があるか。・・・おや女性もいたな!」
彼は、三川や今松の方を見て、カラカラと笑った。
座には、師弟の厳しい指導のなかにも、情愛のこもる温かい空気が流れていた。