映画「コーダ あいのうた」家族の愛の物語 | 休日の雑記帳

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制作年:2021年

制作国:アメリカ・フランス・カナダ

 

家族の愛は重くて煩わしくて不自由で、深く温かく永久のもの。

 

☆あらすじ☆

 

代々漁業を営む家に生まれたルビーは、家族の中で唯一の聴者(コーダ)だった。耳の聞こえない家族たちと聴者をつなぐ通訳として、いつも家族と共に行動してきたルビーは歌うことが大好きだった。高校で合唱部に入ったルビーは音楽教師に才能を見出され、音大への進学を勧められる。しかしルビーの歌を知らない家族たちは、ルビーが家を出てしまうことに難色を示していた。

 

お勧め ★★★★☆

 

聴覚障害者の家系に聴者として生まれてきたルビー。彼女の聴覚と歌唱力は、家族の誰とも共有できず、理解してもらえません。家族への深い愛と絆ゆえ、自分の夢を諦めるべきか葛藤するルビーと、ルビーに本当の才能があるのか判断できない家族たちの不安と、聴者であるルビーへの依存と甘え。家族それぞれの想いがよく描かれた、感動のヒューマンドラマでした。

 

以下、ネタバレを含みます。

 

 

 

 

 

 

 

 

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ルビーの聴覚に頼って安全に漁を行い、聴者との交渉を担ってもらいながら暮らしてきた一家。ルビーが親元を離れて大学へ通うことは、そのまま死活問題となりかねない事態でした。そうでなくてもかわいい娘、いつまでもベビー扱いして手元に置いておきたいのが本音の母親と、母親よりは冷静にルビーの夢について考えながらも、やはり自分たちに理解できない音楽の世界へ行きたがっているルビーを引き留めたい気持ちのある父親。そんな中で、兄だけが最初から真剣にルビーの夢を応援していました。

 

家族の犠牲になって自分の夢をあきらめるな、俺たちを舐めるな、ルビーなしでもやっていけると本気で怒る兄。年が近いこともあって、両親よりも間近にルビーと接し、正しくルビーを評価してきた兄が、愛ゆえに腹を立てている姿がよかったです。

 

もちろん両親もルビーを深く愛していました。両親は、自分たちの生活の心配以上に、ルビーが本当に音楽の世界で成功していけるのかを心配していました。ルビーの歌を聴くことができない彼らは、ルビーが失敗してしまうことを恐れていたのです。これもやや過保護ですが、娘への愛ゆえでしょう。

 

そしてルビーも、家業が大変な時期に家を出ることをためらい、生涯を家族のために費やしてもよいと考えました。そんなルビーを説得し、音大に行かせたいと特別レッスンを組んでくれたV先生の人柄も素晴らしく、ルビーは本当に人に恵まれていたと思います。

 

ルビーの合唱発表会の日、家族たちはみんなで会場を訪れました。聞こえなくても聴衆たちの反応を目の当たりにし、ルビーの歌声は本当に人を感動させるものであるらしいと知った家族。ここの演出が無音だったのがまたよかった。ルビーの歌声は本当に美しいので、発表会の歌は全編聞きたかったのですが、無音で聴衆たちの表情が映し出されることによって、ルビーの才能が聾者たちにどのように理解されるかが垣間見えるようになっていました。

 

その夜、ルビーにもう一度歌ってほしいと頼む父。ルビーの顔に触れ、のどに触れ、歌によって生まれる振動を感じながら娘の幸せを願う父の姿も実によかったです。後日、音大受験を諦めていたルビーを受験会場へ連れて行ったのは、最初はルビーの進学に反対していた家族でした。オーディション会場に家族は入れないと言われるも、二階から入ってみようと提案する父。ルビーが受験会場に現れたと聞いて急いで駆け付け、ルビーの伴奏を申し出るV先生。自分はオーディションに失敗したけど、ルビーの成功を祈るデュエットのパートナー。改めて、人に恵まれ、人に支えられ、人を支えて生きてきたルビーの生き方への評価のようなエンディング。すごくよかった。

 

二階に家族がいることに気づき、手話を交えながらリラックスして歌うルビー。その歌は、オーデイションのためでなく、自分を応援してくれる家族へささげられていました。後ろを振り返って家族が乱入していることを苦笑いで許す審査員たち。固くなっていつもの実力を発揮できていないルビーのために、わざと伴奏を間違ったV先生。何もかもが素晴らしいエンディングでした。

 

音大に合格したルビー。本気で喜ぶ家族。名残惜しく別れを告げたルビーは、手話で真の愛を家族に伝えながら旅立っていきました。柔らかくて温かい雨のような、素晴らしい映画でした。