制作年:2012年
制作国:日本
物語の間や行間、表情の機微などで語られるお話。私にはやや難解でした。
☆あらすじ☆
自殺の名所として知られる崖の近くで商店を営む千代。彼女の店は、自殺者が死ぬ前にコッペパンと牛乳を購入する店として話題になっていた。千代は死を決意したであろう人々にコッペパンと牛乳を売り、後に崖に残された靴を回収する毎日を過ごしていた。
お勧め ★★★☆☆
無表情の中にも何かしらの感情が伺える千代の表情と佇まい。ただ、その意味を理解するには私の人生経験か感性か、何かが足りないような気がします。10年後に見直せば新たな発見があるかもしれない。そう思わせてくれる作品でした。
以下、ネタバレを含みます。
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千代が最初に持ち帰った自殺者の靴、それは千代の父親のものでした。どんな思いで父の遺品を拾い、持ち帰ったものか。大人になった千代は母から店を受け継ぎ、日々の営みを淡々とこなしていきました。自殺者が最後に食べることで有名になってしまったコッペパンと牛乳を、死を望んでやってきた客を止めるでもなく売り、崖に残された遺品を回収し、ただ自宅に保管する。
時々市役所の役員がやってきて生活保護の需給を勧めるところから、千代の生活が決して楽ではないことが伺えます。そんな親切な申し出を断り、ほとんど客の来ない商店を守り続ける千代。定期的に店を訪れるのは、この役員と牛乳配達の知的障碍者の青年だけのようです。
都会で暮らしていたようなのに、わざわざ田舎の商店を継いで苦しい生活を選んだ千代。事業に失敗し、死に場所を求めてやってきた男性には無言でパンと牛乳を売った一方で、いかにも冷やかしの若い女性客のことはやたらと煽ったり、自殺の意図など持っていなかっただろう知的障碍者の青年は青くなって崖淵から抱きしめて引き離し、小さな子供を連れた女性客の自殺は真剣に止めようとしていました。
こんな千代の行動のブレの意味もよくわからなかったのですが、すべての客との静かなやり取りに何かしらの思いが感じられ、切なさと言うか悲しさと言うか、全体的に胸に迫るなにかが感じられる作品でした。
千代は「死にたい人は死ねばいい」という一見冷たい意見を、時には温かい気持ちで、時には強い怒りとともに感じていたのではないでしょうか。最もこれは、多くの人が死を仄めかす人間に対して一度は抱くごく普通の感情かもしれませんが。
そしてラストでは、実弟に縁のある女性が千代の店を訪れました。おそらく死ぬために。彼女が弟の大切な人であることを千代は知らなかったと思うのですが、彼女を見て微笑む千代にはなにか感じるものがあったのでしょうか。彼女にはコッペパンと牛乳を無言で売るのでしょうか。それとも煽るのか、止めるのか。ラストの笑顔はとても優しかったので、これまでの自殺志願者とは違う対応をするような気もします。
難解ながら、余韻に溢れる作品でした。