私は時折、夜にドライブする。
別に車が好きなわけではない。若い頃から車などに何の関心もなく、屋根が付いてて車輪が4つあれば十分じゃないか、くらいにしか思っていなかった。
それがいつの頃からか、夜のドライブをするようになった。
地方都市のアドバンテージというか、夜も10時を過ぎると路上に歩行者も車も姿を消す。
桜はとうに終わり、六月に入ると道路左右の田畑からカエルの声が聞こえてくるようになる。
住宅建築が制限されているので、夜空が広い。そこに、朧月がぽっかり浮かぶ。
こういう時、以前にも書いたように、必ず一種のサンチマンが胸を過る。
ああ、俺はこんなところで何をしているのだ?
そう思う。
これまでやってきたこと、終に果たせなかったこと、出会った人々、過ぎ去った人々。
夜に車を走らせていると、今日まで生きてきた思い出が次々にヘッドライトに浮かんでは、後方に消え去っていく。
稀に、何とはなく人の声が聞きたくなるような時、行きつけのコメダ珈琲に立ち寄る。さして飲みたくもないコーヒーを啜りながら、多分私はそこで少し現実感を取り戻す。
帰路、ウィンドウを半開にして走る。流れ込む夜気は、まだ僅かに初春の涼しさを残している。
人気の消えた暗い路上を、街灯の白色光が照らし出している。
そこで、また思う。ああ、俺はこんなところで何をしているのだ?
いつまでたっても、心が穏やかに老いてくれないようだ。
(2024.5.26)