#46 暇でしょうがない ~ ある日の呟き  | 吉岡 暁 WEBエッセイ ③ ラストダンス

吉岡 暁 WEBエッセイ ③ ラストダンス

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WEBエッセイ、第3回

 

 

バタッと引き合いも受注も途絶えて、暇でしょうがない。エッセイのネタもない。

 

書き始めた長編小説「ささやま情話」は、狂言回し役の会社役員がある夜、旧国鉄大阪駅を出発して郷里の丹波篠山に向かう所から始まるのだが、この男がいつまでたっても出発しない。詩と違って長丁場なのだから、早く行かないと私の寿命の方が先に終わる。

 

詩は面白い。何といっても言語芸術の華だ。

しかし困ったことに、ある程度気分がエモーショナルに高揚しないと、書く気にならない。FBRのパウエル議長の政策に関する分析記事を精読した後で、西行へのオマージュみたいな詩を書くのは大変だった。

更に困ったことに、自分の書いたものを後日読み返すと、「はて、これが詩か?」という根源的な疑惑に襲われたりする。旧友Aには、「気は確かか?」などと嘲弄される。段々落語に出て来るような、下手な俳句をいじくりまわす横丁の隠居じみてくるところが我ながら辛い。

 

もっとも、私は隠居になり損ねた。

隠居になるには、茶飲み友達が無さすぎる。これという趣味もない。何より、茶飲み友達と言っても、対話機能を失って、会えば自分の一代記とか病歴を誇らしげに語りたがるタイプの年寄は、何と言うか・・・〇✕△だ。

結局、今のところ私がリラックスして話ができるのは、旧友Aだけしかいない。同い年で、未だにお互い現役ということもある。

先日も、資金繰りを懸念してかAが電話で言った。

「この先、ほんとに金利が3パーとか4パーとかになったら、どうなるんだろう?」

「国債でも買えよ」

「そんな余分な資金はない」とAが妙にきっぱり応えるので、私は吹き出した。

 

何という事はない話なのだけれども、年をとると、この「何という事はない話」を続けられる相手が少なくなる。本心から可笑しくて笑うことも減っていく。

私はまだまだ若いから・・・と反射的に思ったあなた。

もうすぐだよ。

 

                   (2024.02.18)

 

 

 

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