#41  氷雨と梅といたち ~ 日々の雑感 | 吉岡 暁 WEBエッセイ ③ ラストダンス

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WEBエッセイ、第3回

 

実にどうでもいい話をひとつ。

 

先日の朝、起きて庭に出たら氷雨がボトボト降っていた。

にも関わらず、梅の木にちらほら白い蕾が膨らみ始めていた。

------- こんな書き出しをすると、「冷たい雨に打たれながらも、じっと堪えて春を待つ蕾たち」式の、手垢で真っ黒な擬人法の叙述を予想する人がいるかも知れないが、もちろんそんなわけはない。

とにかく、そのとき庭でイタチを見た。フェレットだったのかも知れないが、私には区別がつかない。そのイタチ・フェレットは隣家との境目の樹の根っこにうずくまり、じっと私を見ていた。<イヌ亜目クマ下目イタチ科イタチ属>の小動物にガンを飛ばされながら、私は郵便物のチェックに行った。チラシ以外に何もない。

玄関に引き返したとき、このイタ・フェレは更に奥隣の家の植え込みに潜り込んでいくところだった。その足取りは妙にのそのそというか、無気力というか、まるでイタチらしくない。きっと、(武田薬品の株価、せっかく新NISAに入れたのに落ちっぱなしじゃん・・・)みたいな失意を託っていたに違いない。

 

話はこれで終わりだ。

年齢を重ねれば重ねるほど、驚きや感興の濃度が薄まる。

失意のイタチはどっかへ行き、雨は一日中降りやまず、私はと言えば、このまま静まり返った墓地のような住宅街で老いさらばえて死ぬのも芸がないな、などと思ったりした。クアラルンプールのチョーキット地区辺りで小さなアパートを借りて暮らし、ある時怪しげな隣人に孤独死を発見される、なんてのも悪くない。

そんなことを妄想しながら、その日は半日請求書の処理に明け暮れた。

 

 

                                                                                     (2024.02.06)

 

 

 

 

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