#10 旧友と歳月 | 吉岡 暁 WEBエッセイ ③ ラストダンス

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WEBエッセイ、第3回

 

旧友。英語でいうところのgood old friends。

いつの世でも、どの世代でも、「俺、お前」で呼び合える友は希少だ。

(女性の場合はどんな風に呼び合うのか知らない。「アタシ、アンタ」?)

私の場合、もう六十代前半で白髪になった。旧友Aはもう少し遅れて禿げだした。

稀に会う機会があって向かい合うと、すぐにAの学生時代の若々しい顔が浮かぶ。だから、(何だ、その禿げ頭は!)といつも会うたびに驚く。いつまでたっても脳内のイメージデータがアップデートしない。

もっともAが、私のシラガ頭を見てどんな風に思っているのかは知らない。

十中八九、知らない方が良さそうだ。

 

歳月は、年々歳々、様々なものを押し流していく。

子供時代、学生時代、青壮年時代・・・、その時々の交友関係も大半は歳月の大河に押し流され、失われていく。

高齢者の仲間入りをすると、この事実が鮮明に表れる。周りに残ったのは、家族を除けば、殆どの場合社会的交友関係における「知人」だけとなる。「です、ます」ばかりの人間関係だ。「お前」とか「あんた」とか呼び合う相手は遂に持てなかったか、あるいはもうあの世に行っている。

 

以前、娘の巣立ちに起因して私が空の巣症候群に陥った時、Aは私を「抜け殻」と面罵した。(何という阿呆だ)という意味のことも言った。

(何を言やがる!)と私は腹を立てたが、それが幸せな事だとは大分後になって気づいた。

 

 

                                                        (2023.11.01)

 

 

 

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