能登半島地震を受けて、6年ほど前に読んだ中井久夫著「アリアドネからの糸」を思い返しています。
アリアドネからの糸とは?
その謎はすぐ解けたのですが、迷宮の奥深くに迷い込んだテセウスを、アリアドネの渡した細く長い赤い糸が道しるべとなって救った神話が、中井さんの精神医学(人間の心)に対する基本姿勢なのだとわかった時、心が震えたのをおぼえています。
2022年8月8日に亡くなられた中井久夫さんを追悼し同12月、NHKの100分de名著が放送されました。
家にはテレビがないので翌年の春休み、四国の実家に帰った時に母に録画してもらっていたものを見ました。その番組の「心の生ぶ毛を守り育てる」というキーワードが、昔読んだ河合隼雄さんの本のどこかで、心を「雨風にさらさた今にも消えそうな小さな灯火」と喩えていたことと重なりました。
2年ほど前、街の古本屋でこれを見つけた時、すぐに買い求めました。
「たくさんのふしぎ」1989年1月号
「迷宮へどうぞ」
種村季弘 文
川原田徹 他 絵
勿論、テセウスのお話も載っています。
以下p15からの抜粋です。
むかしむかし、クレタ島の王さまは、大きな迷宮をつくらせて、そのなかに、ミノタウロスという怪物をとじこめました。頭は牛、からだは人間の、おそろしい怪物です。
怪物は、人間のこどもをたべて生きていました。毎年、海のむこうのギリシアのアテネから、船にのせられて、7人のこどもたちがはこばれてきました。こどもたちを、この怪物のいけにえにしていたのです。
この怪物をたいじしようと、迷宮の中にはいったゆうかんな人は、たくさんおりました。でも、みんな、迷宮のなかで道にまよってでてこられませんでした。
そこへ、テセウスという英雄がやってきて、怪物をたいじしてしまいました。
テセウスは、赤いいとのいとだまをもって、迷宮にはいりました。こうすれば、いとをぎゃくにまいて、いつでも迷宮のそとにでられますね。テセウスに、このちえを教えたのは、アリアドネーという女王でした。
迷宮のなぞをとくのは、ちえ。怪物をたいじするのは、ゆうき。ちえとゆうきのりょうほうがひつようだったのです。