中井久夫著 「いじめのある世界に生きる君たちへ」を先日、読みました。
いじめのある世界に生きる君たちへ - いじめられっ子だった精神科医の贈る言葉
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目次
1、いじめは犯罪でないという幻想
2、いじめかどうかの見分け方
3、権力欲
4、孤立化
5、無力化
6、透明化
7、無理難題
8、安全の確保
構成・編集者によるあとがき
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これは精神科医である著者が
「アリアドネからの糸」の中に書いた「いじめの政治学」を
小学生以上に向けて書き下ろしたものです。
2016年12月に出版された本。
※アリアドネ:毛糸玉を使ってクレタ島の迷宮からテーセウスを
脱出させる手助けをした。
いじめかどうかの見分け方に
立場の入れ替えがないのがいじめ
とあるのには深く頷きました。
これを読みながら。。
関係性(立場)が固定化していないかどうか、
それが巧妙に隠されていく中で
周囲の大人に、それを注意深く見抜くスキルが
必要だと強く感じました。
いじめの効力を無効化できるのは周りの大人です。
勿論学校では、注意深くいじめ対策を考えられているでしょう。
けれども最近のニュースで、先生の指導がこどもの自殺の一因になっているのを目にすると、最も「立ち場の入れ替えがない」のは、大人と子どもだということを、また思わずにいられませんでした。
著者の中井さんは1934年生まれの、83歳。
私の父も生きていればこの12月で83歳、同い年です。
小学6年で終戦を迎えた学年。
中井さんは戦時中に学校で激しいいじめを体験されていますが
私の父からも、いじめの体験を聞いたことがあります。
(父は5歳で結核による膿胸の手術(肋骨を一本取る)をし、同じ病でその頃母親を亡くしています。1年遅れて小学校に上がった時には、ヒョロヒョロで歩くのもやっと、抵抗力も弱く、目と耳からいつも汁が垂れていたそうです。まさにターゲットになりそうな。。)
中学年か高学年だったのでしょうか。ある時、教室で先生が
「大根でも、出来の悪いのは間引きをするんだ」
と父を見て話し、
そして軍服のボタンつけ作業から、父は外されたとか。
(ボタンつけくらい俺にだってできる、と思ったらしい)
「これは教育として間違っている」
今ならそう言えますが、誰からも教えてもらえなかった父は
「わしは間引かれる方なんだな」
そう思ったと聞きました。
当時、クラスで、ボタンつけ作業から外されたのは
障害のある友達(男の子)と父。
ガキ大将グループからこの2人は
毎日のように暴力をふるわれていたそうです。
先生が是認しているのですから、暴力はふるい放題だったでしょう。
またその先生自身も、当時戦争をしていた国の方針に是認されていたとも言えます。
ある日、 "米つき" という
仰向けに寝た一人の両手足を他の数人で持って
ドシンドシンと地面に打ち付ける暴力
(父の背中には肋骨をとった大きな手術痕(凹み)がありました。)
を父がやられていた時に、ガキ大将が
次は障害のある友達を丸太の上で米つきするように
家来たちに命令したそうです。とっさに父は
「それはいかん!」
と声をあげて、止めたとか。
命が危ないと思ったそうです。
こうした話は私が小学生の時に父から聞いたのですが、
よく生き延びられたと思います。
本書に書かれたいじめの原因
「権力欲」
(いじめる側の持つ、他人をコントロールしたい欲求
いじめられる側に原因はない)
「いじめ」の進んでいく段階
「孤立化」「無力化」「透明化」
これは、第二次世界大戦時にナチスがユダヤの人々に対して行ったホロコーストの過程でもあるそうです。
■民族差別のPR、居住区や服装の制限 → 孤立化
■資本財産の没収、公職の剥奪、反抗は逮捕処罰 → 無力化
■名前を剥ぎ取り番号化、強制収用所へ → 透明化
父の場合にも当てはまります。
■出来の悪い者は間引かれると言う教師の言葉、作業からの排除→ 孤立化
■ガキ大将グループからの暴力 →無力化
父は無力化の段階だったのか。父から誰かが止めてくれたとは聞いていないので、
透明化までいっていたのかもしれないですが。
(参照:大津のいじめ自殺事件の第三者委員会では、「アリアドネからの糸」を引いて「いじめの透明化の段階にあった」と報告しています。→記事)
この本を読むと、起きているいじめは
「いじめられる側に原因はない」
とはっきりと心に刻むことができます。
加害者は、他人を支配し、言いなりにする欲望を満足させるために、いじめをするのだと。そして同じ権力欲を持った大人の手法を真似ている(自分がされているように)というのが哀しかった。
第二次世界大戦の当時
「そんなに悪くなることはないだろう」
とユダヤの人々に起きている事態を、良識ある人々でさえ深刻に捉えていなかったと別のところで読んだのが思い出されます。
人は繰り返すのか、過去に学んで進歩するのか。。
中井さんは
このような文章を書くと、対策はどうなのだという質問がさっそくでてきそうです。わたくしは現段階では、心の傷がもたらすさまざまな症状の研究者であるハーマンの言葉を引いて、まずいじめられている子どもの安全の確保であり、孤立感の解消であり、二度と孤立させないという大人の責任ある保障の言葉であり、その実行であるとだけ述べておきます。
これ以上の対策をあれこれあげることは、実行もせずに絵空事を描(えが)くことになり、かえって罪なことになります。その場に即(そく)して有効な手立てを考え出し、実行する以外にない世界です。わたくしのように初老期までいじめの影響に苦しむ人間をこれ以上つくらないよう、各方面の努力を祈ります。
と書いています。
息子のことに限れば、今の高校では担任の先生がまず入学当初に
「ひとりでいても居心地のいいクラスにしていきましょう」
と言ってくださったのが息子にとって、よかったと感謝しています。
ひとりと孤立は違う。
ひとりは繋がろうと思えばいつでも誰かと繋がれます。
ぼっち気味な息子も、安心して教室にいることが保証されている。
大人が子どもに示す指針は影響が大きいですね。
子どもが育っていく場所は、
その成長が暖かく喜びを持って見守られる場であって欲しいと思います。
少なくとも家庭はそのようにハンドルしたい。
「アリアドネからの糸」
(ちょっと心の準備が要りそうですが)読んでみたい。
アリアドネからの糸
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「心的外傷と回復」ジュディス・ルイス・ハーマン
も手にとってみたい。
心的外傷と回復
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参考)
■平成25年度からの文部科学省の「いじめ」の定義↓(いじめの定義HP)
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「いじめ」とは、「児童生徒に対して、当該児童生徒が在籍する学校に在籍してい る等当該児童生徒と一定の人的関係のある他の児童生徒が行う心理的又は物理的な 影響を与える行為(インターネットを通じて行われるものも含む。)であって、当該 行為の対象となった児童生徒が心身の苦痛を感じているもの。」とする。なお、起こ った場所は学校の内外を問わない。
「いじめ」の中には、犯罪行為として取り扱われるべきと認められ、早期に警察 に相談することが重要なものや、児童生徒の生命、身体又は財産に重大な被害が生 じるような、直ちに警察に通報することが必要なものが含まれる。これらについて は、教育的な配慮や被害者の意向への配慮のうえで、早期に警察に相談・通報の上、 警察と連携した対応を取ることが必要である。
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受けた行為によって、心身の苦痛を感じれば「いじめ」だとされる。
■アメーバブログでこの本をとりあげている記事
▪︎ロジカル現代文
「いじめのある世界に生きる君たちへ」を読む(→記事)
▪︎よしだ教室 授業ダイアリ
中学生達は「いじめのある世界に生きる君たちへ」から何を学んだか(→記事)