膠着なのか愛なのか『8マン vs サイボーグ009』感想 | 平井部

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8マンは自分にとって大切なヒーローであり、決して懐かしい過去の存在ではなく、ずっと時代を併走してくれているリアルタイムのヒーローです。彼はどうしてるだろう…って、時折想起しては「8」が刻まれた黒いボディに想いを馳せます。

 

 

『8マンvsサイボーグ009』

 

他に何も用事がない日を選んで、万全の状態で一気読みさせてもらいました。

 

 

 

 

 

すごく面白かったですし、「東映まんがまつり」的なお祭り感も、十分に楽しめました。

 

昭和が誇る2大スピードスターが、二人並んで街を駆け抜けるビジュアルだけで、気持ち上がりますね。

 

 

ストーリー展開はよく練られていていたし、登場するキャラクターそれぞれに見せ場が用意されていて、最後は巨大な敵を倒して大団円。まさにクロスオーバーするヒーローたち大活躍の「東映まんがまつり」そのものの面白さでした。(軽く棒)

 

 

 

ただ……

 

 

サチ子さんのことは、描かないで欲しかった。

 

あんなエンディングは、見たくなかった。

 

 

“機械と人間の恋愛”って、こんなにあっさり雪解けを迎えられるものなのですか? 

 

サチ子さんのことを扱うなら、ストーリーの一(イチ)要素としてではなく、真正面から扱って欲しかった。

 

 

自分にとっても、きっと東八郎というキャラクターにとっても、簡単には触れて欲しくない、痛みを伴うデリケートな記憶だったはず。

 

 

 

 

正直申し上げて、今作全般に、違和感を感じるセリフや行動はたくさんあったんですが、こんなお祭り企画に一々ツッコミ入れるのは無粋極まりなく、看過するつもりだったんです。

 

 

でも、あのラストシーンへの無念感は、ロートルなファンの正直な感想として、記しておくべきだとも思ったので、自分の無念をよく象徴する以下のシーンを紹介して、違和感を詳らかにしてみます。

 

 

 

8️⃣ 8️⃣ 8️⃣

 

 

 

ファーストコンタクトの後、「あの事件」以来初めて、東八郎はかつての探偵事務所を訪れるのですが、そこでは執務机に鎮座した 009島村ジョーが待ち構えている。

 

「東探偵いや、8マン。ここに来れば会えると思っていたよ」

 

 

って…。

 

 

なんで??

 

 

東探偵、数十年ぶりにここを訪れたんですよ?

 

「なかなかの情報収集能力だ」って褒められてはりますが、60年ほど前にはそれはここで活動していたけれども、あの事件以来長らく、探偵事務所としては完全に機能していないはずなんですが…。

 

 

ヨッシャー! 情報キター!! 60年前やけど、まだ全然やってるはず~!!

 

 

…ってすごい単純な感じで、ぼくが考えすぎなだけなんでしょうか💦

 

お忙しそうな00ナンバーがなんと3名もいらしてるので、それ相応の確信はあったと思うのですが…。

 

 

 

 

コウモリ型の偵察機に監視されているのを覚った東探偵は、とっさに女性である003の背後に回り、首に腕をかけて拘束する…。

 

 

へっ?ガーン

 

 

 

いや、分かってるんですよ。

 

 

東探偵は003を傷つける気など毛頭なくって、監視者には00ナンバーと敵対関係にあると誤認させ、009をわざと怒らせて闘いに引き込もうとしていた。003にもこっそり、彼女にしか聞こえない声で「手荒な真似をしてすまない…。君に危害は加えない」って、まあコンマ何秒かの短時間しかなかったでしょうが伝えてもいた。

 

 

そこをちゃんと押さえた上で、言わせてもらいますと

 

 

おれの東八郎は、絶対そんなことはしねえ!

絶対にだ!!

 

 

 

 

「やめてッ!! 東さん!」

 

ここで叫び声と共に侵入してくるのはサチ子さんであり、これは007が変身した姿である訳ですが、この場面では一瞬だけ東探偵の注意を逸らせば良いんですから、別に一郎くんでも007本人の姿でも良かったはずなんですよね。

 

 

先の003の話しぶりでは、かつてサチ子という女性が事務所で働き、東探偵との間に恋愛感情があったことは知られていて、おそらく00ナンバーの間で情報共有されている。

 

 

そうか、一番メンタルにダメージ与える姿で登場したってことか、007さん。やりますねえ。

 

 

双方ともに、ヒーローらしからぬ心理攻撃を仕掛けたということで、ここは痛み分けって感じですかね。

 

 

 

8️⃣ 8️⃣ 8️⃣

 

 

 

少し余談にはなりますが、「『東探偵事務所』の看板を掲げたまま数十年後の今も当時の状態を保っている」と言う件についても。

 

 

事務所は、都内のそう不便ではなさそうな場所に存在しています。

 

あのビルは谷博士が所有していて、世界の何処かから税金だけきちんと払い込んでいたのかな…と、一応、好意的に解釈しております。警視庁が用意した物件なら、早々に撤退させられたでしょうし。

 

 

もしサチ子さんが自分で借りた上で管理してたとすると、めっちゃ低めに見積もって月10万だとして、年だと120万。50年で6000万円…。

 

まあかなりハイソなお嬢様みたいなので、ご家族はこれくらい余裕で出せる資産家なのかも知れません。

 

 

 

8️⃣ 8️⃣ 8️⃣

 

 

 

「…そうかしら? …それでサチ子さんは幸せになれたのかしら?」

 

003が漏らしたこの疑問、ぼくも問わずにはおれません。

 

それで、サチ子さんは、幸せになれたんでしょうか?

 

 

 

この世界でのサチ子さんは、結婚して子供もいたようですが、ご主人とは死別してお子さんたちも一人立ちして、ちょっと郊外すぎる場所に建つ一軒家に色々おあつらえむきな感じで暮らしているという。

 

「ずっと独りで東探偵を待ち続けていた」とかではなくて、そこはかなり安心しました。

 

 

 

003の口車に…もとい、友情溢れる助言に心を動かした東八郎:8マン、どんな思いでサチ子さんとの再会に挑んだんですかねえ。

 

 

懐かしきあの人の扉に続く一本道を歩み去る、東八郎の後ろ姿…。

 

ここはきっと、8マンと同じく、どうやっても修羅道を抜け出せなかったあのキャラ、『ランボー4 最後の戦場』のエンディングのオマージュなんですね。(すいません冗談です。違います。)

 

 

 

サチ子さんはもうすっかりおばあちゃんになってるはずですから、変装上手な東さんにはおじいちゃんに変化してもらって、二人で一緒に余生を過ごす…んでしょうか? それもまたよし?

 

 

あれから60年を経た、あの人の姿。

あれから60年を経ても、全く変わっていないあの人の姿…。

 

 

二人の愛なら、そんな表面上の相違などものともせずに、乗り越えられるんでしょう。(軽く棒)

 

 

 

 

「まあ東さん! 今日は夕飯でもいかがかしら?」

 

「それは良い! 君の手料理すごく楽しみだよ! まあ後で全部胸から捨てるんだけどね」

 

「いやん!」

 

 

って、サイボーグネタかませるくらい吹っ切れれば良いんですけれどね。

 

 

8️⃣ 8️⃣ 8️⃣

 

 

 

これが、8マンワールド全ての終着点であるとは思わないです。

 

きっと、無限のマルチバースの中のほんの一つ、009ワールドとクロスしたこの世界のみで起こった結末であると、思うことにします。003さん乙!

 

 

 

8マンとサチ子さん、あれからどうなったんでしょう。

 

どんな形で、それぞれの幸せを見つけてるんでしょう。

 

 

そんな結論が見えるはずもない空想を繰り返すことで、ずっと彼らと繋がっていられます。膠着なのか愛なのか…そんなツッコミを自分に入れつつ、永遠に追いつけない彼の黒い背中、また追いかけて行きます。