長らく中断しておりました 超犬リープ [SECOND] 、「1.17」の日に再開致します。
今度は序章の終わり、リープが復活するところまでは必ず書き上げます。
「毎日更新」でいきますので、そんなにお待たせせずに済むかと。
「テーマ別」の「超犬リープ [SECOND]」をクリックしていただくと、最初から順に読んでいただけます。平井和正原作の『超犬リープ』を読んだことない方でも楽しんでいただけます。
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では行きまっす!!
5(承前)
洗面所を使ってから、一階の食堂に移動する。まだ全然寝足りなかったが、予期せぬ闖入者にすっかり目が覚めてしまった。
だいたいの間取りは、昨夜由紀子から教えてもらっている。着替えは部屋のテーブルに新しいTシャツとズボンが用意されていて、サイズも自分の好みにもぴったり合った。
幅広い階段を下り、木製の扉を引き開けて食堂に入る。何もかも大柄な造りになっていて、心細さもあってか、幼児に逆戻りしたかのような錯覚を覚える。
上質の木材がたっぷりと使われた、心地いい部屋だった。高い天井から吊るされた電灯は点いていなかったが、レースのカーテンごしに射し込む光で十分に明るい。
十人ほどかけられる横長のテーブルに、ラップで覆われたサンドイッチが置いてあるのを見て、思わずゴクリと唾を飲み込む。お腹がキュ~っと切なげに鳴る。落ち着いてちゃんとご飯を食べたのがいつだったか、思い出せないくらいである。
「起きましたか」
声に振り向くと、戸口に引っ詰め髪の中年女性が佇んでいる。咄嗟のことで何も言葉が出てこず、コクリと頷いて肯定の意思だけ示す。
「私は戸崎。この家のこと全般を任されております。何かご希望があったら遠慮なく言うようにと、後藤から申しつかっております」
冷たいとは言えないまでも、完璧に事務的な声音で、戸崎と名乗った中年女性はそう告げる。艶のない髪の毛を後ろで一まとめにし、白いブラウスに地味な色のカーディガンを合わせている。顔立ちは整っているのに、綺麗だと思われるのを本人が拒んでいる印象がある。
「朝食、サンドイッチでよろしいですか?」
質問にかなり食い気味でワタルはバブルヘッド人形のように小刻みに頷く。
「すぐ飲み物をお持ちします。ミルクがよろしいですか? オレンジジュース? 紅茶?」
「オレンジジュースで」
「了解しました。席についてお待ちなさい」
ボトルに入った水とジュースがサーブされるやいなや、ワタルはサンドイッチを夢中でほおばる。卵やチキンカツなど、数種類あったようだが、ゆっくり味わっている余裕はなかった。
時間は11時をかなり回っており、戸崎が頼むのに合わせて、昼食のデリバリーもお願いする。旺盛な食欲をみせて、次いで食卓に運んでもらったイタリアンのパスタとピザを一人で平らげ、ようやく人心地付く。
「邸内は自由に出入りしてもらって構いませんが、後藤と私のプライベートスペース、研究室には無断で入らないように。特に製作中の研究物は、色々な意味でとても危険です。絶対に無断で触らないように。なんのことがない機械に見えても、私やあなたが一生かかっても払えないような金額がかけられていたりするのです。分かりましたか?」
食べ終わった頃合いを見て、別室で食事をとっていた戸崎が姿を表す。子供相手なのに、しかつめらしい表情と言葉を少しも崩そうとしない。ワタルは神妙に頷きながら、『ハイジ』に出てきたロッテンマイヤーさんに似ているなあ……と思っている。
「まだ危険なので、外にも出ないように。身の振り方や安全面含めて、こちらで調整するので、しばらく身を潜めていてほしい、とのことです」
「リープと遊んでもいいの?」
「ええ。それは許可が出ています。しかし、あまり刺激は与えないように。私は突き当りの庶務室に詰めております。何か用があったら……」言い終わらないうちに「ひえっ」と声を上げて戸崎は飛び上がる。
何かから逃れるように、片足立ちで樫の扉にペッタリと寄りかかる戸崎の足首に、猫のダイが青灰色のしなやかな身体を擦り付けている。
「あっちに行きなさい!!」黄色い声で怒鳴られても一向にひるまず、むしろその反応を面白がるかのように、戸崎の引きつった白い顔を見上げてダイは「な~ご」と鳴いてみせる。
「猫、きらいなんですか?」ダイ、ダメだよ……とたしなめながら、ワタルが問いかける。
「ね、猫は、好き、です。“これ”、が嫌いなだけ」
必死で体勢を立て直し、身づくろいを整えると、ふんっと忌々しげに息を吐いて、戸崎は廊下の奥に消えてゆく。
「ダイ、きみ、嫌われてんだね。何かひどいイタズラでもしたんでしょ?」
心外な……とばかりに、ピンと伸ばした尻尾でワタルの脚をポンと叩くと、ダイはしずしずと澄ました様子で廊下を歩いて行く。