次に瞑想について書きます。
ここで紹介したいのが、漫画家の桑田二郎さんの一連のご著書です。般若心経に関しての本は何種類か出ていますが、ぼくがテキストにさせていただいてますのが、2003年に出版された『マンガで悟れる 般若心経』全3巻です。
桑田二郎さんは、言うまでもなく、『8マン』『まぼろし探偵』『月光仮面』などで一時代を築かれた高名な漫画家でらっしゃいます。(当時は「桑田次郎」名義)
華麗な来歴とは裏腹に、人生のかなり初期から “死” に憑かれてらしたようで、十七歳でナイフを胸に突き刺したのを初めとして、以来何度も、自殺未遂を繰り返されます。『8マン』連載中に起った拳銃不法所持事件も、元々自殺するために拳銃を入手されたのだとか。(ご自身でも「原因の良く分からない」とおっしゃるこの辺りの心の動きは、自伝『走れ! エイトマン』に詳しいです。)
仕事でも第一線を離れられ、プライベートでもお独りになられて、「いよいよ自分のこの世の“いのち”を終らせる時が来たようだ」と考え始めてらした四十二歳厄年のある日、桑田さんは後半生を一変させる神秘的な体験をされます。
“いのち” に関して考えに考え、飲み明かした夜明け前、綾瀬川の土手で放心状態で座っていると、突如として目の前に巨大な黄金色の太陽が昇り始め、まわりの風景もその黄金の光に包まれて輝きわたっているのです。
「“魂” もふっとぶ」感動のあまり、それ以来毎朝土手に通い続けるも、二度と同じような光景には出逢えなかったということですが、そんな毎日の中で実感されるようになったのが、「瞑想」を通して触れることができる、意識の奥のさらにその奥の、“魂”レベルの意識でした。
瞑想意識において、“魂” の声が声のない言葉で “いのち” の奥深い言葉を伝えてよこし、それと共に糸がほぐれるように分かりはじめたのが、「般若心経」の真の意味あいであり、それは決して自分で考え出せるような事がらではありませんでした。
それらの内容を、人にも理解しやすい工夫をまじえて描かれたのが、氏の一連の「般若心経」シリーズです。
般若心経の経文には「方便」が多様されていて、瞑想による実感を通して理解しないと、言葉の表面の意味だけたどっても、まったく訳の分からない言葉にしかならない……と、桑田二郎さんはおっしゃいます。
般若心経に秘められた “いのち” の真理を理解すると、人は自分の運命をもかえることができる……。自身の暗鬱な精神の動きを、良い方へと切りかえるにはどうすれば良いのか?
『マンガで悟れる 般若心経』では、般若心経の一語一語にわたって、表面的な意味から、裏に秘められた真意まで、詳細に説かれていますが、その根幹にあるのが、一大心霊へと向かう“霊的進化の波動”と、物質世界を主とする我意識、無明意識へと向かう“逆進化の波動”のせめぎあい、でしょうか。“空”と“色”の関連性。
物質次元、“色”の世界も、「自らをあらわそう!」とする一大心霊の根源的意志のあらわれなのだけれど、その物質界のみに囚われ、価値を見出すところに苦悩が生じる……という考え方は、今やもう一般的であって、「頭では分かっていてもやっぱり辛い!」という方が、ぼくを含めて多いと思いますので、ここから “先” に進むには、般若心経の真意や、何より頼るべきである自らの真我を “実感” として感受するしかないのかも知れないですね。
以下は『新訳 般若心経 あるがままの“いのち”の姿』冒頭の、桑田二郎さんのお言葉です。
「般若心経の内容をひとくちで言うなら、仏の世界からわたし達に、『“いのち”の真理に目を開こう!』と、呼びかけているお経です。(中略)その、超次元的な“いのち”の感性に目覚める具体的な方法が、『般若波羅蜜多』と呼ばれる瞑想の行です。般若心経は全文を通して、わたし達の意識を『般若波羅蜜多』へと導き、そこに目覚める超次元的な感性によって、経文に秘められた深い“いのち”の真理を理解してゆけるように構成されているのです。」
次回、瞑想実践篇です。