(その1から続き)
「へえ、撃たれちゃうのか。怖い怖い」
「侵入者発見!!男子粒子反応アリ! 破壊!!」
「わああああ!」
紫蘭の銃から放たれた銃弾が男の頬を掠め、背後の石壁が砕け散った。
男は顔面を蒼白にして叫んだ。
「本当に撃つなよ! 殺す気か!?」
「ふん。話を聞いていたのに、わざわざ姿を現すから、殺して欲しいのかと思ったぞ」
紫蘭は不敵に笑うと、へたり込む男を見下ろしながら銃を突きつけた。
「何しにきた、ファルス」
「いいじゃないか、遊びに来たって。潤いがないんだよ、男子寮は」
クランは男子寮と女子寮に分かれている。
繭期は人間の思春期とは逆に性的なことに対する意欲は減退しがちだ。しかし、何せ本人たちも自分を制御できないのが繭期である。各家庭から預かっている子どもたちの間で、何かの『まちがい』を起こすわけにはいかないのだろう。
竜胆も実際に男子寮を見たことないが、恐らく似たような暮らしをしているはずだ。
「確かにむさ苦しい男どもが集まった臭い動物園のような場所にいるのは、さぞかし苦痛だろう。この甘い匂いがする楽園に来たくなる気持ちはわからんでもないが、私の可愛い天使たちに手は出させんぞ」
紫蘭が撃たないのを見て、苦笑しながらファルスが立ち上がる。
「ムチャクチャ言うねえ。だいたい、女の子はキミのもんなのか?」
「無論。可愛い女の子が戯れる姿は、見るだけで心が癒やされるものだ。このクランを作った御館様は趣味が良い。お会いしたことはないが、その点では気が合うと思うぞ。ただし、男子寮も作るという最悪の罪を犯しているからな。その好感度も相殺はされる」
「あー、そう」
ファルスが何か言いたげにしていたが、諦めたようにガックリ肩を落とす。そこまで男の存在を否定されると立つ瀬がないのだろう。
「冗談はともかく、だ」
「どこまでが冗談だ?」
「聞け」
紫蘭の声色が険しくなり、ファルスはギョッとして口をつぐんだ。竜胆も驚き、思わず身体が硬直する。
「他の女子もだが、竜胆にだけは、絶対に近寄るなよ。会話をすることも許さん」
「えー」
「これは警告だ。次は弾丸をお前の脳天に撃ち込む」
「……」
あまりにも一方的な通達に、さすがに気色ばんだ表情になるファルスを見かね、竜胆が恐る恐る声をかける。
「紫蘭、何もそこまで……」
「ダメだ。それとも竜胆、おまえは平気なのか?」
「……ううん」
平気かと言われれば、そうではない。のだが、しかし。
「なんだ、君たちは付き合ってるのか?」
ファルスが顔をひきつらせながら、それでも軽口を叩く。
「そうだ。私の竜胆だからな」
ニヤリと笑う紫蘭に、竜胆は赤面して慌てた。
「ちょ、ちょっと、紫蘭!? 何を言い出すのよ!」
「あら、こんな道の真ん中でおしゃべりしてるの?」
「え?」
虚を突かれ、竜胆が振り向くと、たおやかな黒髪の少女が優しく微笑んでいた。
「あ、スノウ……さん。それに」
「あ、ごめんねー、話の邪魔しちゃって。もー、スノウったら、人が集まってるとすぐ首をつっこむんだから」
「うふふ、だって、楽しそうだったから」
スノウと同じく長い黒髪をなびかせた涼やかな目の少女が、スノウの袖を引っ張ってたしなめる。それを見て、紫蘭は少し苦々しげな表情になる。
「リリーとスノウ。我がクランきっての才媛コンビのお出ましか」
「そんなことないわ。紫蘭さんの方がずっと優秀だもの」
「止めろ。おぬしに言われても素直に喜べん」
「うふふ」
ふてくされる紫蘭に、微笑むスノウ。
スノウは黙っていると凄みさえある美人だが、物腰が柔らかくいつも微笑んでいて、また人の世話を焼くのが好きなので、クランでも一、二を争うほど人気がある。また、人と関わるのが好きで、毎日のように各グループのお茶会に参加しているようだ。口数が多い方ではなく、おしとやかに会話を聞いて笑っているだけなのだが、それが本当に楽しそうで、印象に残っている。
「私は紫蘭と竜胆の二人が並ぶ方が絵になると思うな。いつも目立ってるもん」
「やめてよ、リリー。私は……ちょっと背が高いだけ」
竜胆は前向きにその言葉を受け止めることもできず俯いた。女子にしては少し高い身長は、竜胆にとって決して美点ではなかった。
「背の話じゃないよ。竜胆は綺麗だってこと」
「あ、ありがとう……」
リリーはいつもまっすぐだ。そして優しい。
良いことを良しとし、悪いことを悪しと判断して行動できる子だ。それはそれで胆力がいることである。
「いやー、すばらしい。女の子の会話は華やかだなあ。どう?一緒に5人でお茶でも飲もうよ」
ファルスが両手を広げながら、わざとらしく割って入ってきた。紫蘭が犬でも追い払うようにシッシと手を振る。
「結構だ」
「つれないねえ」
「では、我々は遠慮する。おまえの本命は、どうせリリーとスノウであろう。貴様のお気に入りだからな」
ファルスは毎日のように女子寮に顔を出し、手当たり次第に女の子に声をかけているが、結局のところ、リリーとスノウにちょっかいを出しにきている印象だ。
ファルスは挑発に乗るでもなく、満面の笑みを浮かべながら、リリーとスノウの間に身体を滑り込ませて、二人を片方ずつの手で抱きかかえるように肩に手を置いた。
「ははっ、こんなに可憐で美しい二人だ。当然だろ」
「あらあら」
「ギャー!馴れ馴れしい!」
「いってえー!蹴るなよ!」
さして嫌がるでも喜ぶでもないスノウと、悲鳴を上げてファルスの太ももに蹴りを入れるリリー。こういうやり取りもいつものことだ。
「はぁ、バカバカしい。行こう、竜胆」
「え、ええ……」
言われるままに紫蘭に従い、少し離れたところで振り返ると、ファルスは、三人はこちらをもう気にするでもなく、和気藹々と騒いでいた。なぜだか疎外感のようなものを感じ、胸が締め付けられる。
「竜胆?どうした?」
立ち止まった竜胆に気づき、紫蘭が訝しげに尋ねてくる。竜胆は、何と言っていいかわからず、代わりにまったく違うことを口に出していた。
「紫蘭は、あの二人のこと、あんまり、好きじゃない? とても可愛くて、華があって……。二人とも、理想の女の子でしょう」
「だからだ」
紫蘭は吐き捨てるように言った。
「嫌いではない。可愛い女の子は好きだからな。だが、あの二人は華がありすぎる。あいつらがいると、私の存在が霞む。主役にはなれない。だから……、面白くないのだ」
あまりにも身も蓋もない物言いに絶句する竜胆。しかし、真理ではある。
「竜胆にはわからんだろう」
「ううん」
竜胆は首を振った。
「わかる、気がする。……私もあの二人が眩しいから」
この気持ちは羨望なのか、嫉妬なのか、それとも。
竜胆は、遠くにいる三人の姿をしばらく眺め続けた。
(その3へ続く)
「へえ、撃たれちゃうのか。怖い怖い」
「侵入者発見!!男子粒子反応アリ! 破壊!!」
「わああああ!」
紫蘭の銃から放たれた銃弾が男の頬を掠め、背後の石壁が砕け散った。
男は顔面を蒼白にして叫んだ。
「本当に撃つなよ! 殺す気か!?」
「ふん。話を聞いていたのに、わざわざ姿を現すから、殺して欲しいのかと思ったぞ」
紫蘭は不敵に笑うと、へたり込む男を見下ろしながら銃を突きつけた。
「何しにきた、ファルス」
「いいじゃないか、遊びに来たって。潤いがないんだよ、男子寮は」
クランは男子寮と女子寮に分かれている。
繭期は人間の思春期とは逆に性的なことに対する意欲は減退しがちだ。しかし、何せ本人たちも自分を制御できないのが繭期である。各家庭から預かっている子どもたちの間で、何かの『まちがい』を起こすわけにはいかないのだろう。
竜胆も実際に男子寮を見たことないが、恐らく似たような暮らしをしているはずだ。
「確かにむさ苦しい男どもが集まった臭い動物園のような場所にいるのは、さぞかし苦痛だろう。この甘い匂いがする楽園に来たくなる気持ちはわからんでもないが、私の可愛い天使たちに手は出させんぞ」
紫蘭が撃たないのを見て、苦笑しながらファルスが立ち上がる。
「ムチャクチャ言うねえ。だいたい、女の子はキミのもんなのか?」
「無論。可愛い女の子が戯れる姿は、見るだけで心が癒やされるものだ。このクランを作った御館様は趣味が良い。お会いしたことはないが、その点では気が合うと思うぞ。ただし、男子寮も作るという最悪の罪を犯しているからな。その好感度も相殺はされる」
「あー、そう」
ファルスが何か言いたげにしていたが、諦めたようにガックリ肩を落とす。そこまで男の存在を否定されると立つ瀬がないのだろう。
「冗談はともかく、だ」
「どこまでが冗談だ?」
「聞け」
紫蘭の声色が険しくなり、ファルスはギョッとして口をつぐんだ。竜胆も驚き、思わず身体が硬直する。
「他の女子もだが、竜胆にだけは、絶対に近寄るなよ。会話をすることも許さん」
「えー」
「これは警告だ。次は弾丸をお前の脳天に撃ち込む」
「……」
あまりにも一方的な通達に、さすがに気色ばんだ表情になるファルスを見かね、竜胆が恐る恐る声をかける。
「紫蘭、何もそこまで……」
「ダメだ。それとも竜胆、おまえは平気なのか?」
「……ううん」
平気かと言われれば、そうではない。のだが、しかし。
「なんだ、君たちは付き合ってるのか?」
ファルスが顔をひきつらせながら、それでも軽口を叩く。
「そうだ。私の竜胆だからな」
ニヤリと笑う紫蘭に、竜胆は赤面して慌てた。
「ちょ、ちょっと、紫蘭!? 何を言い出すのよ!」
「あら、こんな道の真ん中でおしゃべりしてるの?」
「え?」
虚を突かれ、竜胆が振り向くと、たおやかな黒髪の少女が優しく微笑んでいた。
「あ、スノウ……さん。それに」
「あ、ごめんねー、話の邪魔しちゃって。もー、スノウったら、人が集まってるとすぐ首をつっこむんだから」
「うふふ、だって、楽しそうだったから」
スノウと同じく長い黒髪をなびかせた涼やかな目の少女が、スノウの袖を引っ張ってたしなめる。それを見て、紫蘭は少し苦々しげな表情になる。
「リリーとスノウ。我がクランきっての才媛コンビのお出ましか」
「そんなことないわ。紫蘭さんの方がずっと優秀だもの」
「止めろ。おぬしに言われても素直に喜べん」
「うふふ」
ふてくされる紫蘭に、微笑むスノウ。
スノウは黙っていると凄みさえある美人だが、物腰が柔らかくいつも微笑んでいて、また人の世話を焼くのが好きなので、クランでも一、二を争うほど人気がある。また、人と関わるのが好きで、毎日のように各グループのお茶会に参加しているようだ。口数が多い方ではなく、おしとやかに会話を聞いて笑っているだけなのだが、それが本当に楽しそうで、印象に残っている。
「私は紫蘭と竜胆の二人が並ぶ方が絵になると思うな。いつも目立ってるもん」
「やめてよ、リリー。私は……ちょっと背が高いだけ」
竜胆は前向きにその言葉を受け止めることもできず俯いた。女子にしては少し高い身長は、竜胆にとって決して美点ではなかった。
「背の話じゃないよ。竜胆は綺麗だってこと」
「あ、ありがとう……」
リリーはいつもまっすぐだ。そして優しい。
良いことを良しとし、悪いことを悪しと判断して行動できる子だ。それはそれで胆力がいることである。
「いやー、すばらしい。女の子の会話は華やかだなあ。どう?一緒に5人でお茶でも飲もうよ」
ファルスが両手を広げながら、わざとらしく割って入ってきた。紫蘭が犬でも追い払うようにシッシと手を振る。
「結構だ」
「つれないねえ」
「では、我々は遠慮する。おまえの本命は、どうせリリーとスノウであろう。貴様のお気に入りだからな」
ファルスは毎日のように女子寮に顔を出し、手当たり次第に女の子に声をかけているが、結局のところ、リリーとスノウにちょっかいを出しにきている印象だ。
ファルスは挑発に乗るでもなく、満面の笑みを浮かべながら、リリーとスノウの間に身体を滑り込ませて、二人を片方ずつの手で抱きかかえるように肩に手を置いた。
「ははっ、こんなに可憐で美しい二人だ。当然だろ」
「あらあら」
「ギャー!馴れ馴れしい!」
「いってえー!蹴るなよ!」
さして嫌がるでも喜ぶでもないスノウと、悲鳴を上げてファルスの太ももに蹴りを入れるリリー。こういうやり取りもいつものことだ。
「はぁ、バカバカしい。行こう、竜胆」
「え、ええ……」
言われるままに紫蘭に従い、少し離れたところで振り返ると、ファルスは、三人はこちらをもう気にするでもなく、和気藹々と騒いでいた。なぜだか疎外感のようなものを感じ、胸が締め付けられる。
「竜胆?どうした?」
立ち止まった竜胆に気づき、紫蘭が訝しげに尋ねてくる。竜胆は、何と言っていいかわからず、代わりにまったく違うことを口に出していた。
「紫蘭は、あの二人のこと、あんまり、好きじゃない? とても可愛くて、華があって……。二人とも、理想の女の子でしょう」
「だからだ」
紫蘭は吐き捨てるように言った。
「嫌いではない。可愛い女の子は好きだからな。だが、あの二人は華がありすぎる。あいつらがいると、私の存在が霞む。主役にはなれない。だから……、面白くないのだ」
あまりにも身も蓋もない物言いに絶句する竜胆。しかし、真理ではある。
「竜胆にはわからんだろう」
「ううん」
竜胆は首を振った。
「わかる、気がする。……私もあの二人が眩しいから」
この気持ちは羨望なのか、嫉妬なのか、それとも。
竜胆は、遠くにいる三人の姿をしばらく眺め続けた。
(その3へ続く)

