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ゼルプスト殿下の事情

ご多分にもれず、わたくしにもいろいろな事情があって、ここに書けたり書けなかったりいたしますが、書けることは書きます。

まずは次の画像.知っている人にはお馴染みかもしれません:

こういう図形を「フラクタル図形」といいます。これがどんな理屈ででき上っているかというと、複素数の定数 c を上手に選んで,f(z) = z^2 + c で定義される写像 f(z) を繰り返し適用して,各複素数 z から数列

  z, f(z), f(f(z)), f(f(f(z))), ...

をどんどん作っていったとき,何回めで値の大きさ (絶対値) が 5 を超えるか,というその繰り返し回数に応じて,複素数平面を色分けしていくと,こんなふうな複雑な模様が描き出されるのです。

この理屈のとおりに画面に図を描き出すプログラムを書くこと自体はそれほど難しいことではありませんので、わたくしも若いころに大学のパソコンを借りたりして、ずいぶん楽しみました。さすがにもうだいぶ下火になりましたけど、「カオスとフラクタル」というテーマ、わたくしがまだ大学生で故郷の京都に住んでいた1980年代後半から、名古屋で大学院に通っていた1990年代にかけて、けっこう流行ったんです。「フラクタル・グラフィックス」の理論面からの先駆けの一人、京都大学の宇敷重広先生の『フラクタルの世界 入門・複素力学系』(1987年,日本評論社)は名著だと思います。

で、なんで今さらそんな古い話をするかというと、先日、ある学生さんが「フラクタルが面白そうだから勉強したい」と言うので、じゃあ宇敷先生の本を読んでみたら? とアドバイスしたのです。

フラクタルは研究対象として実に面白いのですが、確固たる「フラクタル理論」というものはなくて、「測度論」「微分方程式」「複素解析」「数値解析」「コンピュータ・グラフィクス」「数論」といったさまざまな切り口からアプローチされています。宇敷先生のアプローチは、上に述べたように複素数の函数を繰り返し適用する複素力学系という方法を使っていて、数学科で複素解析を勉強しながら副読本的に追っていく題材としていいんじゃないかと思っています。


宇敷先生の本にも複素平面上のフラクタル図形を作画するプログラムが多数掲載されていますが、それは当時人気のあった Turbo Pascal というPascal言語処理系向けに書かれたものです。現在、そのプログラムをそのまま使えるコンピュータはまずないでしょう。ですが、本題である数学の部分は、おいそれとは古くなりません。パソコンの性能は現在はもう当時とは比較にならないくらいに向上していますし、プログラムをリメイクすれば、この本に新たな生命が吹き込めるんじゃないか、と考えました。パソコンには必ずといっていいほど、ネットワーク接続デバイスが備わっており、Webブラウザがインストールされています。JavaScript で書いて Webブラウザで表示できれば、パソコンのみならず、スマホやタブレットでも画像を確認できます。

そういうことを、時間のあるときにちょっとずつやっていこうかなと思っています。

数学ネタを掲載するための「なげやりアカデミア」というサイトを運営していますので、そこに掲載することにします。時々チェックしていただければ幸いです。

Set Theory: With an Introduction to Real Point .../Birkhaeuser
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Amazon.co.jp

「集合と位相」というのは大学の理学部数学科というところに必ずあり,そして例外なく学生さんの評判のよくない科目です.これはまあ仕方がありません.「集合」「写像」「順序」「位相」といったものは,数学の進んだ面白いところを理解するために必要な基本語彙なのです.ですから専門的な数学を勉強してもらう前にひととおりそれらを学んでもらいます.その段階に留まっていては,面白くもなんともありません.どうやら,面白がってもらうことを期待せず,とにかくしっかり勉強して理解してもらい,早いところ通過してもらうに限るようです.

いっぽう,専門的研究分野としての集合論というものもあります.これは先ほど言った「数学の進んだ面白いところ」の一つで,実際,とても面白いのです.自然数と有理数の間に一対一対応がつく,直線上の点全体と平面上の点全体の間に一対一対応がつく,高校生のころ,それらを初めて知ったときの衝撃は忘れられませんし,連続体の濃度がアレフ系列のどこに位置づけられるかという連続体問題が現在までたどってきている道筋には,ある種のドラマがあると思います.

さて,そうした専門的研究分野としての集合論は,こんにちでは「公理的集合論」という形をとって研究されています.いろいろな理由があってそうなっているのですが,公理的集合論を正しく理解するには,どうしても多少なりとも論理学の知識が必要です.とくに,言語の形式化というところを理解してもらわねばならず,ここでけっこう敷居が高くなってしまいます.

では,この敷居をまたぐことなく,てっとり早く集合論の面白いところを学ぶことはできないものでしょうか.

Anhijit Dasgupta の “Set Theory: With an Introduction to Real Point Sets”は,そういう願いにかなりの程度答えてくれる本だと思います.

この本の第一の特徴は,理学部数学科の専門基礎としての«評判のわるい集合と写像»の話から,集合論を公理化せず(つまり素朴集合論の立場で)基数と順序数の理論や実数の集合の理論へと進むところです.これによって先に集合論のおいしいところをいただいてしまおうという作戦なのです.もちろん,最後には,素朴集合論の「危険性」と公理化の必要性,そこから発展した進んだ話題もきちんと紹介されています.

全部で22の章と3つの補遺からなっています.全体をざっと見ていきましょうか…

全体は「準備 (Preliminaries)」と題された第1章で始まります.ここは«評判のわるい集合と写像»の復習です.集合の記法,部分集合,冪集合,順序対と関係,写像,順序関係,同値関係といった基本中の基本が解説されます.

第2章から第4章までが第I部「デデキント:数について」

第2章:デデキント=ペアノの公理系(自然数の理論)
第3章:デデキントの連続体の理論(実数の理論)
第4章:第I部へのあとがき「結局のところ自然数とは何なのか」

第5章から第12章までが第II部「カントール:基数・順序・順序数」

第5章:有限と無限の基数
第6章:基数の算術とカントール集合
第7章:順序と順序型
第8章:稠密順序と完備順序
第9章:整列順序と順序数
第10章:アレフ,共終数,選択公理
第11章:半順序,ツォルンの補題,ランクと木
第12章:第II部へのあとがき「無限組合せ論」

基数の算術とカントール集合が同時に出てくるのが意外ですが,対角線論法や冪集合の濃度に関するカントールの定理に関連してのことでしょう.無限ラムゼイ定理が第11章に出てきますが,証明は [N]^2 の 2-分割 の場合に限ってあります.第12章ではススリンの問題,マーティンの公理,◇-原理などについて,証明抜きで概観しています.

連結順序集合の連続写像についての中間値の定理が実数論というより順序の理論の命題として論じられているのも,面白い特徴だと思います.

第13章から第19章までが第III部「実数の点集合」

第13章:区間木と一般カントール集合
第14章:実数の集合と函数
第15章:ハイネ=ボレル定理とベールのカテゴリ定理
第16章:可算閉集合のカントール=ベンディクソン解析
第17章:ブラウアーの定理とシルピンスキの定理
第18章:ボレル集合と解析集合
第19章:第III部へのあとがき「可測性と射影集合族」

この第III部が本書の第二の特徴です.実数の集合論のいろいろな結果(カントール=ベンディクソン定理,ルベーグ可測集合族,解析集合にかんするルジンの分離定理,などなど)が扱われています.解析集合のルベーグ可測性の証明など,かなり高度な内容が含まれている代わり,扱うのは数直線とその部分集合のみで,一般の完備可分距離空間は言うに及ばず,2次元のユークリッド平面すら出てきません

「これは深刻なハンディキャップと見えるかもしれないが,この制約度の高い枠組みでも,実点集合論のたくさんの興味深いトピックを紹介することができる.実際,理論の実質はこれでも大して損なわれないのに対し,ずっと深い直観の働きが得られる.学部レベルの実解析を教えた経験をもとに言えば,まず実数直線の強固(hard)で具体的(concrete)な細部にしっかりと足を着けた学生のほうが,のちの進んだ研究で出会う抽象をも,楽しく上手に扱えるものだ.」(本書まえがき)

さて,第IV部は第20章から第22章です.

第20章:パラドクスと解決策
第21章:ツェルメロ=フレンケルの体系とフォンノイマン順序数
第22章:第IV章へのあとがき「現代集合論のランドマーク」

最後にようやく素朴集合論のパラドクスと公理化の話になります.上に引用した序文の一節は実数の点集合の理論に関して言っているのですが,集合論一般についても,同様のアプローチをとっていることがわかります.数直線の集合論をしっかり学び,基数や順序数がそこでどのように働いているかをつぶさに見てから,公理的集合論に進もうという作戦です.

本書には「定義」「定理」「命題」「問題」など,番号つきのステートメントが1,300あまりあります.そして,そのうちのかなりの部分を「問題」が占めています.問題を章の最後にまとめる方法は採らず,本文中に埋めこまれ本文の構成要素になっています.問題だけを取り出してみると難問に見えるようなものでも,本文を読みながら解いてゆけば簡単に解ける場合がかなりあって,著者の深慮がうかがわれます.本書の最大の魅力と言える第三の特徴は,こうした教育的配慮の行き届いた構成にあります.


というわけで,結論です.

わたくしたちの学科のカリキュラムを考慮していえば,この本一冊で,それこそ「集合と位相」から,卒業研究のテーマまでカバーしています.例年「集合と位相」を担当する教員のハシクレであり,記述集合論専攻の研究者のふりをして禄を食んでいるわたくしにとって,この本は衝撃的です.なにせ英語なのでいきなり日本で学部生向けの教科書として採用するのはむずかしく,言ってみればそれだけが難なのですが,それはもちろん,この本の責任ではありません.こうした本が日本でも書かれることを期待するばかりです.(というか,自分が書くしかないのかもしれませんが.)もちろん,教科書に採用することはできないまでも,教員としてみて,内容はとても示唆的です.

もしもあなたが数学科の学生で,英語が怖くないのであれば,ぜひこの本を手にとってみてください.

なお,安価な電子書籍版(Kindle版)がありますが,iPadのKindleアプリで確認した範囲では数式の表示に難があり,お勧めできません.紙のほうをどうぞ.

いや,たいした話ではないです.

いま,英語で書かれたある数学の専門書の翻訳に取り組んでいます.

数式を含む文章を入力するには,LaTeX2ε というソフトウェア環境を利用するのが定番になっており,わたくしもそれを利用します.これは,ワードプロセッサーではなくて,コンピュータのソフトウェアのソースコードのように,テキストファイルに,地の文章といっしょに数式などの組版の指示を書き込んだ「マークアップ言語」を記述して,それを「コンパイル」することで,PDFファイルなどの出力が得られるというものです.

ともあれ,そういう形でパソコン上に訳文を入力していくわけです.

あるいは,英文を参照しながらいきなり訳文をパソコンに打ち込んでいく,という形をとる方もいらっしゃるかもしれません.わたくしは,いちど手書きで大学ノートに下書きをします.

そのほうが,文章に集中できる気がします.なんといってもパソコンはネットワークにつながっていて,いろいろの情報が飛び込んできますから,要するに気が散っちゃうんですね.

わはは.悪筆ですまぬ.

ある程度まとまった量の訳文ができてから,パソコンに入力します.そのときに「あのときはこう書いたけど,こう書きなおしたほうがわかりやすいな」とか「あっ,ここ間違っとるやんか」という具合いに改善や修正をすることもあり,いわば二段階のフィルターになっています.

で,何が言いたいかというと,たくさんの文章を書くことになるので,気にいったノートとボールペンを使いたいわけです.

といっても,高価なものは使いません.

いろいろ試したのですが,現在使っているノートはナカバヤシの「スイング・ロジカル」あるいは無印良品の「整うノート」で,どちらも6mm罫・B5版のものです.段落の扱いによって行の始めの字下げ幅を変えて区別できて,そこが気に入っています.

同じ機能を謳ったコクヨの《東大合格生がなんちゃら》というCampusノートは,罫線のツブツブが気になるので好きになれません.

ボールペンは長いことゲルインキの「サラサクリップ」を使っていたのですが,このごろは主にゼブラの「スラリ0.7」を用い,色わけが必要なときに同じくゼブラの4色ボールペン「スラリ4C」を使っています.「スラリ」はつや消しのエマルジョンインクというのを使っていて,書き終えたあとの紙面がテカらないのです.

このチョイスの難点があるとしたら,ボールペンの替え芯を売ってる店が多くないってことでしょうか.まあ,それもちょっと大きい店にいけばちゃんと手に入るので,それほど困ってはいませんよ.


ふむ。やはり MathJax を使って数式を書くなんてことは 自前サイト でやるべきだな。

数式の表示は諦めたとして、これはこれで、いろんなことができるんだろうし、ちょっとずつ試すことにしますわ。