二人目 | 女を口説く術

二人目

 周囲の目が気にはなった。恥ずかしかったからではなく、願望を果たしている自分を見せているという、誇りに似た爽快感があった。声を掛けた女性は遠くにいってしまったが、次があった。「せめて一人だけでも声を掛けなければ、帰れない」という、達成見込のない、低すぎるノルマは、「三人に声をかける」という実現可能性の高い、具体的で明確な目標に変わった。
 気が楽になったといっても、その後すぐ声を掛けられるわけではなかった。これだと思う女性を見送るだけの時間が30分つづいた。そのうちに、さっきのいい気分も消えて、前ほどではないにしろ、また未知の自分になる恐れが戻ってきた。とりあえず「もう一人」と言い聞かせて、おとなしそうな、色白の女性に声をかけた。
 斜め前から「こんばんは」と挨拶しこちらを見ずに歩いていく女性に平走しながら「良かったらご飯食べませんか?」というと、女性の口が開いた。
 「なんでですか?」
 一瞬無言になり、動揺しながら「あの、かわいいんで」と言うと、女性はこちらを見て、微笑んだ。