青色顔料で有名なのは
ラピスラズリから作るウルトラマリンブルーです。
イタリアの御土産として
本物のウルトラマリンをいただいたのですが、
もったいなくてまだ使っていません。
今度ぜひ、使ってみようと思いながら、
何年も経ってしまいました。
アフガニスタンのラピスラズリから作った本物のウルトラマリン。
フィレンツェ、ゼッキ画材店のもの 10g入り
ウルトラマリンは、19世紀前半に合成のウルトラマリンが登場するまで、
極めて高価な材料でした。
12~13世紀に
ラピスラズリから不純物を除いて
ウルトラマリンを精製する方法が発達し、
顔料としての華々しい地位を得ました。
ラピスラズリは産地が限られていて、
ヨーロッパで使用されたものは、
現在のアフガニスタンに産するものでした。
海路で運ばれたため「海を越えてくる青」という意味で
ウルトラマリンブルーと呼ばれました。
原石が貴重であったこと、
そして原石を顔料にする技術が複雑であったために、
最も高価な顔料となり、
金と同等かそれ以上の価値があったそうです。
精製の方法は中世以降の写本やメモに残されており、
要約するれば、粉砕した粉末を油や樹脂などのパテで練り、
薄めた灰汁の中で揉むと
青い顔料が出てくるというものです。
水性の媒材で使用すると、
ランブール兄弟(1390?~1416年)の写本にあるような、
鮮やかな青になります。
ランブール兄弟による ベリー公の豪華時祷書。
7月の麦刈りと羊毛の刈取り
卵黄や油で練ると、黄変でせっかくの青色を鈍くするので、
羊皮紙から作った透明なニカワなどを使うことがあります。
下地に他の安価な青を塗っておいて、
その上にウルトラマリンを塗って節約することもあったようです。
ウルトラマリンを使用した油絵画家で有名なのがフェルメールで、
青にはほとんどウルトラマリンを使用しているそうです。
時には深みを出すために、黒にもウルトラマリンを混ぜたとか。
贅沢ですね~。
印象的な青いターバンはウルトラマリンを塗っているだそうです。
(この画像はネットからお借りしました)
フェルメールよりずっと作品の点数が多く、作品も大きいレンブラントは、
赤や黒などの手に入りやすい色を駆使した画風で大成し、
ルーベンスは、青色としてスマルト(コバルトガラスを粉末にした顔料)を使ったそうです。
さて人工のウルトラマリンは
天然のウルトラマリンと、組成は同じですが、
合成の方が純度が高く、色が鮮やかで、きめも細かいです。
左 ラピスラズリから作ったウルトラマリンブルー
人工のものに比べると少しくすんで、ざらっとしていますが、
結晶がときどきキラっと光ります。
右 合成ウルトラマリンブルー 鮮やかで粉は細かい
1瓶 15g 700円です。
私の持っている青色顔料
左から合成ウルトラマリンブルー、コバルトブルー・ディープ、コバルトブルー・ライト、セルリアンブルー
500年前に書かれたチェンニーニの『絵画論』に
ウルトラマリンの精製法も書かれています。
この本は日本語訳もされて、私も翻訳本を持っています。
一部ご紹介いたしますので、興味のある方はお読みください。
チェンニーノ・チェンニーニ 「絵画術の書」
オルトレマリーノOltremarinoの性質とその作り方
すべての顔料を凌駕して、高貴で美しく、完璧な顔料である。
金と共に用いられると、それが壁であろうと板であろうと、
ことごとくの物に輝きをもたらす。
まず初めにラピスラズリを用意する。
もしよい石を見分けたいと望むなら、青色の豊かなものを選ぶように。
なぜならこの石は、灰のような部分が全体に混ざり合っているからである。
しかし見た目にたいそうきれいな、
群青の原石アズライトと間違えないように。
ラピスラズリを青銅の乳鉢に入れ、覆いをして搗き砕く。
次に砕いたものを斑岩の上に置き、水を加えずにすり潰す。
それをふるいにかけ、再度必要なだけ搗き砕く。
細かく挽けば引くほど青顔料は細かくなるが、
濃い菫色の美しさは失われてしまう。
薬種商からラピスラズリ 1リブラ((libra 約0.33㎏)に付き、
松脂6オンチャ(1オンチャは約30g)、乳香3オンチャ、採取されたばかりの蜜蝋3オンチャを買ってくる。
これらすべてを新しい小鍋に一緒に入れて溶かす。
次に白い麻布を用意し、釉薬の掛かった鉢の中にこれを濾して入れる。
そこにラピスラズリの粉末1リブラを入れ、一緒によく捏ねる。
これをこねるために両手に亜麻仁油を塗る。
毎日少しづつ捏ねながら、3日3晩は寝かしておかないといけない。
そのまま、半月でも1か月でも置いておくことができる。
青の顔料を抽出するときは、
捏ねたものを入れた鉢に、温めた灰汁を椀1杯分ほど注ぎ、
先端を丸くした2本の棒でパンをこねる要領で搗き交ぜる。
灰汁が完璧な青色になったら、この汁を別の椀に取る。
また、次に同量の灰汁を取り、同じように搗き交ぜる。
灰汁が青くなったら、別の椀に注ぐ。
同様のことを何日もかけて行い、色が出なくなるまで繰り返す。
青い色の汁が入った椀は抽出された順に並べて置く。
初めの抽出物のほうが、質が良い。
灰汁の入った椀は毎日、日に干して青色顔料を乾燥させる。
十分乾燥したら、革袋、膀胱、巾着などに入れる。