少し古い話になるが、㈱ノイズ研究所(神奈川県相模原市)の労働裁判は、降格・減給を伴う給与制度の変更が認められた国内初の裁判として有名である。
この裁判は、会社が一方的に給与制度を年功序列型から成果主義型に変更したことにより賃金が低下したとして、減給された社員が減給分の支払いを求めた労働裁判である。
事件の始まりは2001.4.1に会社は組合との団体交渉を拒否したまま就業規則を一方的に変更し、給与制度を年功序列型から成果主義型とし、結果として大幅な賃下げが強行された。
しんぶん赤旗によれば、具体的には、一番賃金を下げられた比嘉さんの場合、成果主義の名のもとに主任から一般へ降格され月給341,800円から259,750円に減額された。
会社に大きな損害を与える等の理由により懲戒処分を受けたのならわかるが、単なる賃金制度の変更(要するに会社の都合)により、急にこれだけ大幅に賃金を減額されれば以前と同じ生活をすることは困難であり、裁判を起こしてでも生活を守ろうとした気持ちは理解できる。
判決は、次の通りだ。
1審(横浜地裁川崎支部)判決 2004.2.26 勝訴
判決理由:労働者の不利益の度合いが大きく、給与の変更は法的要件を満たさないと判断した。
2審(東京高裁)判決 2006.6.22 敗訴
判決理由:労働者の不利益を考慮しても、成果主義への変更は高度な必要性があり、かつ合理性があると判断した。
その後、原告は最高裁に上告したが、2008.3.28に最高裁は不受理決定し、判決が確定した。
成果主義の高度な必要性と合理性の根拠は以下のとおりであり。
a) 高度な必要性
グローバル化が進み、競争が激化した経営状況の中で、成果主義は社員のモチベーションを高め、労働生産性を高めて競争力を強化する必要性があった。
b) 合理性
給与の原資総額を減少させるものではなく、配分をより合理的に(職務の重要性に応じて)配分しようとしたものである。
また、労働者側の不利益性についても、組合との団体交渉を行い円滑に変更しようとしていたこと、経過措置を設けることにより減給額の一部を補填していることを考慮しても、変更には合理性がある。
私は、上記の判決理由に疑問を感じざるを得ない。
成果主義には、その評価基準等の不明確性から問題が生じることが多く、労働者のモチベーション低下などの影響があり、必ずしも労働生産性を高めるとは言えないと考える。
たとえば、労働者の能力に応じた仕事を与え、労働者の成果をきちんと評価している会社がどれくらいあるだろうか? 身の回りに優秀だが上司に嫌われる等、そのさじ加減で不合理な評価をされている従業員はいくらでもいる。
合理性についても、給与原資をより合理的に(職務の重要性に応じて)配分しようとしたものとしているが、結局、配分の仕方(成果主義の評価基準)は会社が恣意的に決めるものであり、必ずしも客観的に合理的とはいえない。
つまり、裁判所の最終的な判断は成果主義の制度だけをみて、その制度が正しく運用されることを前提として判断していると思われる。
1審では、労働者の実際の不利益を鑑み、成果主義型の賃金制度が合理的に運用されていないと判断したのに対し、2審(及び最高裁)は企業の成果主義の導入を推進する観点からか、多少の労働者の不利益はやむをえないとしているように見える。
私も成果主義を全面的に否定するものではないが、成果主義の名のもとに企業の恣意的な賃金設定により労働者を一方的に苦しめるものであってはならないと考えているだけだ。
ちなみに、しんぶん赤旗によれば、会社のやり方に嫌気がさし、成果主義型の賃金制度の導入後の3年間にベテラン社員を中心に約2割の従業員が会社を去ったそうだ。