軍艦武蔵 上・下 手塚正己著

太田出版、2003年4月、459・427頁

ドキュメンタリー作品の製作者が、武蔵乗組員生存者からの証言を元にドキュメンタリー映画「軍艦武蔵」を作成、更に関係者を武蔵沈没後に遭難者を救助した駆逐艦「濱風」「清霜」等の乗組員にまで広げて壮大な物語として出版した物。三菱長崎造船所での艤装時代からマリアナ沖海戦を経て、シブヤン海での戦闘から沈没、漂流、更に内地への帰還、終戦、そして戦後までを追う。その中には駆逐艦濱風、清霜の働きも挿入されていて当時の戦況が俯瞰出来る。二千数百名が乗り組んだ武蔵の多種多様な部署、戦闘配置から二十余名の戦闘員が選び出され、個々の体験が時間を追って正確に辿られる。整合性は日米の各種資料なども含め綿密に取られていて、かなりのリアリティーを持って、かつ淡々と迫ってくる。

以前読んだ阿川弘之の「軍艦長門の生涯」が、どちらかと言えば士官中心の見方とも思えるが、こちらは下士官や一般兵の証言も多く取り入れてある。壮大な叙事詩。

当時の海軍の士官、下士官クラスの人たちの、訓練の賜物であろうが、危機に瀕しての対応、リーダーシップには注目させられるし、敬意を表しないといけない。

武蔵はあまり注目されない軍艦だが、乗組員には連合艦隊旗艦に相応しい人達が集められていた。それがよくわかる一級の資料。更に駆逐艦の働きも良く描写されていて、思わず駆逐艦の模型を作りたくなってくる。