チャールズ・ディブディンについて | アイリッシュ・ハープ研究家、奏者、制作者、音楽教育者 寺本圭佑

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18世紀英国の作曲家チャールズ・ディブディンはサウサンプトンの町に29人兄弟の末っ子として生まれた。なんと母親が50歳の時の子どもで、長兄トマスは29歳も年が離れていた。つまりディブディンの母は29年間、毎年ひとりの子どもを産み続けたことになるのだろうか・・・

この話は何かの間違いかもしれない。「トム・ボウリング」は船上で死んでしまった長兄トマスのために書かれた曲。彼は東インド会社の交易に携わっていた艦長だった。チャールズは年の離れた彼のことを父のように慕っていたという。

「トム・ボウリング」はBBCプロムスの最終夜で演奏されることで有名。

ちなみにBBCプロムスで演奏されるヴァージョンは長年この演奏会を指揮してきたサー・ヘンリー・ウッドの Fantasia on British Sea Songs に編曲されたもの。トラファルガーの海戦200周年を記念して1905年に書かれた。

Fantasia on British Sea Songs の「トム・ボウリング」の前に演奏されるのが、やはり18世紀英国の作曲家シールドが編曲した The Saucy Arethusa。この曲はアイルランドのハープ奏者カロランの≪プリンセス・ロイヤル≫ と同じ曲でアイルランドを代表する音楽家カロランの曲が英国の国民的な音楽とみなされていたことで≪プリンセス・ロイヤル≫の帰属論争みたいなのが起こっていた。このことに関してバラッド協会のウェブサイトに投稿させていただきました。

「民謡のナショナリティについての一考察 ―― “Princess Royal”の起源をめぐる英国、アイルランド間の論争を例に」
http://j-ballad.com/note/129-%E2%80%9Cprincess-royal%E2%80%9D.html


それで、話はディブディンに戻るんだけど、彼の歌曲は18世紀アイルランドでも流行していて、当時のアイリッシュ・ハープ奏者はディブディンの曲を演奏していたことをほのめかす証言がある。盲目のハープ奏者アーサー・オニール(1734?-1816)は次のように言っていた。

「近年のハープ奏者が新しい音楽を愛好する結果、古来のアイルランド音楽の大半が失われてしまった。この風潮はいまや支配的になっている。私が旅をしてきた様々な地方で、国民的な曲や歌はほんの一部のジェントルマンの間でしか演奏されていないもしバンティングの骨折りがなければ、ディブディンの作品やその他の作曲家の類似した作品が、ごくわずかな期間で、私たちのいとしいアイルランド音楽を絶滅に追いやったであろう」

こういう背景があって今回私はディブディンの「トム・ボウリング」を金属弦アイリッシュ・ハープに編曲したわけです。単に綺麗な曲だからという理由でやったわけじゃない。

金属弦ハープ独奏のための チャールズ・ディブディン作曲「トム・ボウリング」(寺本圭佑編)
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