私が少年の頃、
横浜の下町は、まだバラックが立ち並ぶ戦後の町だった。
みんな貧乏で、
それでも大家族が必死で、
ただ、ひたすら、今日を生きていた。
そしてその頃の私は、
日々起こる哀しい出来事を忘れるために、
夜が来ると、ただひたすら、
一生懸命、眠ろうとしていた。
‥‥
朝が来て、
目を覚ますと、
周囲が見違えるような夢の国になっていのではないか?
そんな期待をもって、
昨日の悲しみが去っていってくれないかと、
目覚めの時は、辺りを見回すのが常だった。
でも、次第に目が覚めてきて、
周囲が見違えるような夢の国になっていることは
残念ながら、なかった。
また、哀しい現実が、始まるのだった。
戦後の横浜の下町は、
戦災の傷跡が消えない、
哀しい町だった。
‥‥
今、東北の避難所で暮らす子供達を見ていて、
つい、自分の遠い過去を思い出した。
子供達は、きっと、
明日の朝起きたときには、
昨日まで住んでいた自分の家の、
自分の寝床で目が醒めることを願って、
一生懸命、眠ろうとしているのではないか‥。
朝起きて、‥‥
ねぇ、ねぇ、凄く怖い夢を見てきたんだよ!
ってね、そう言える筈だよねって、
そう思って、一生懸命眠ろうとしているのではないか?
この現実は、
きっと夢なんだよね!
ってね、誰かが言い出すのを、
静かにじっと、待っているのではないか?
‥‥
私は、夢の扉の前に居て、
まだ、その扉を開けていないんだ!
そう信じていた少年の自分が、
まだ私の心の中に居る。
静かに静かに横たわる、
少年の繊細な心の襞を癒すには、
この現実は、惨すぎる‥‥