脳科学者 茂木健一郎さんの「思考の補助線」(ちくま新書)を何度も読んでいると、
とても気になる論考の章があることに気がついた。
それは、「登攀(とうはん)の一歩」というタイトルで語られる出版界の現状分析の部分。
登攀とは、険しい岩壁などをよじ登ることを意味しますが、
要は、硬い本が売れなくなった出版界の現象を捉えて、
脳をギリギリまで絞り込むような、思考の連続を要求される類の
いわゆる専門書にほとんどの日本人が見向きもしなくなったという現象を
嘆いているのですね。
出版と言えども一つのビジネスであることは確かで、
出版する書籍がどのように高尚なものであっても、
売れなければ意味がない‥というのも事実です。
しかし、だからと言って、新書ブームにあるような、
「薄味の偽物」が書店売上の上位にくる現象を手放しで喜ぶわけにはいかない。
(そういう主張をしている本著も新書なのだが‥‥)
ゲーテのファウストをしっかり読み込んでいくという行為など、
私は、依然として、読書の本質は、
作者が書き上げるのにかけた時間と同じだけ時間をかけ
何度も読むべきだと頑なに信じている一人(自論)
ですが‥そういう読書のスタイルは、軽い、薄い時代の空気には合致していないといえるのも確かですね。
そして、茂木さんは、現代の人々の「お手軽さの嗜好性」にふれ、
欲望の強度の低下
が生み出した現象の中の一つだとしていますね。
ライト感覚、ソフトで軽く、薄味が好まれる現代。
だからこそ生涯に亙って格闘する一冊の本があってもいいと思う。
何度も何度も読み返していると、その都度、関心を持つ一行の場所が違っているのも事実です。
そういう本との付き合い方も、結構楽しいですよ?