5月25日の昼、仕事で松本から安曇野に向かっていくと、北アルプスの峰々がきれいに見えた。


ゴールデンウィーク前後くらいから、天気が良い日でも、黄砂の影響か、松本から見る北アルプスは靄がかかったように白くかすんでおり、その麓から山頂まで、はっきり見ることができるのは久しぶりであった。


まだその頂は雪で白いが、大分山頂付近まで後退している。


そしてその麓は緑に色づき、田園が広がっている。


その風景に誘われるまま車を走らせた。


てくてく歩いていくと・・・・。
長野自動車道。松本IC~豊科IC間



てくてく歩いていくと・・・・。
梓川PAから


てくてく歩いていくと・・・・。

豊科ICを降りて、山麓線をはしる。穂高牧近辺


てくてく歩いていくと・・・・。

安曇野市と松川村の境に流れる穂高川に架かる鼠穴橋から。右奥にみえる山は有馬山(安曇富士)。NHK連続テレビ小説「おひさま」によくでてくる山。



てくてく歩いていくと・・・・。

穂高川の土手。水溜りにアルプスが。


てくてく歩いていくと・・・・。

大町、高瀬川に架かる蓮華大橋より。白馬連峰がすぐそこに。


そのまま白馬に向かう。


てくてく歩いていくと・・・・。

白馬八方、ジャンプ台そば。



てくてく歩いていくと・・・・。

同じく、白馬八方。菜の花が満開


そして、帰りに大町により、県道45号線をはしり、黒部ダム方面に向かう。


てくてく歩いていくと・・・・。

県道45号線より。多分正面の山は蓮華岳。写真に写ってるおじさんは山菜とりをしていた。


そのまま黒部ダムに向かい、もっと北アルプスの山々を感じたいところであったが・・・・。


携帯から着信音が。


お客から呼び出しの電話だ。そういえばまだ仕事時間だということを思い出した。


松本から行き帰りで、目的地がとくにはない2時間のドライブ。


時間をかけななくても、自然を満喫できる信州に感謝しつつ、そろそろ登山や渓流釣りの準備をせねばと思い、仕事に戻る。

「池上邸の庭で、水出しコーヒーをつくるんですよ」といつものバーで私に語ったのは、パイプタバコが似合う男。


「井戸からの湧水を使って、8時間かけてコーヒーを抽出するので手間がかかりますけど、おいしいですよ」


水出しコーヒーについて、熱湯を使用したものより、コーヒーそのものの香りや風味を感じることができ、酸味が少ないすっきりとした味わいであるということを、どこかで読んだことがある(多分マンガ「美味しんぼ」)。


普段熱湯を使用したコーヒーしか飲まないのでどんなもんだろうか?と思いつつ、5月8日(土)のよく晴れた午後、池上邸に向かった。


てくてく歩いていくと・・・・。

「池上邸」


江戸時代に庄屋であったという家柄の邸宅。伝統的な本棟造りの建物。








てくてく歩いていくと・・・・。

コーヒーをつくっているのは、池上邸の庭にある米蔵(右写真)。
















天井には、コーヒー豆が入ったガラスの入れ物がいくつかつるさっており、抽出されたコーヒーが少しずつ、そこからのびるチューブの中を流れ、床においてあるガラスの坪に一滴一滴落ちていく(下写真)。

てくてく歩いていくと・・・・。


てくてく歩いていくと・・・・。


てくてく歩いていくと・・・・。

てくてく歩いていくと・・・・。

どの蔵もそうであるが、中に入ると外とは異なった空気感がある。


蔵は窓は少なく、換気をするのがその主たる目的である。そのため窓をあけたとしても、照明をつけなければ昼でも中は暗い。また蔵内は外気の影響を受けにくいので、外が暑いとき特にひんやりとした感じを受ける。


そしてそれだけではなく、その蔵が長い間に蓄積したニオイも感じることができる。蔵の体臭といっていい。この蔵は米蔵であったためか、土とともに糠のようなにおいをかすかに感じる。歴史ある蔵である証拠である。


このような蔵の独特な空気感をこわさないような配慮であると思うが、中に照明を特につかわず、入り口から自然光が差し込むくらいだ。また水出しであるためコーヒーのにおいで蔵内が充満するということはなかった。


外からの自然光がコーヒーをつくり出す機材を優しく浮かびあがらせ、蔵に中に昔から存在していたかのような調和を見せている。


耳を澄ませると、ポト、ポトというコーヒーが滴り落ちる音が聞こえる。蔵が呼吸しているかのような、ゆったりとしたリズムだ。


スミに椅子が置いてあったので、蔵の空気感に身をゆだねるようにしばらく座っていた。5分くらいだろうか。気持ちが落ち着き心地よくなったためか、少しウトウト眠くなってきた。


本当に眠ってしまったら怒られそうなので、外に出てコーヒーをいただくことにした。

てくてく歩いていくと・・・・。

パンナコッタとコーヒー2杯のセットで1000円。コーヒーが2杯あるのは、それぞれ異なる地元の湧水を使っており、それを飲み比べてほしいという意図である。使用する湧水は日替わりで、この日は「呉竹の井戸」と「鯛萬の井戸」のものを使用していた。また中に入れる氷もその湧水でつくっている


期待していた通り、酸味が少ないすっきりした苦味を味わえ、コーヒー豆のふんわりとした香ばしさも楽しめた。普通のアイスコーヒーであったらまずこの香りのよさを感じることはできない。水出しコーヒーならではだろう。


異なる湧水2つの味の違いは微妙であるが、鯛萬の井戸からとれる湧水の方が若干まろやかであった。しかし抽出時間とか若干のつくり方の差でも変わるような感じはする。どこまで湧水の差なのだろう。



てくてく歩いていくと・・・・。 コーヒーをつくっているのは「L PACK 」のお二人。小田桐 奨さんと中嶋 哲矢さん。


バックパックにコーヒーづくりの道具を詰めて、横浜市黄金町を拠点としながら、日本各地で「コーヒーのある風景」を演出している。


小田桐さん(右)に、先ほど思った疑問をたずねると、少し照れくさそうに答えてくれた。

「味の違いは、確かに微妙ですね。味わってくれる人がそれぞれに感じてくれることがあればいいんですよ」


そして今年でこの試みは3年目だが、試行錯誤しながら毎年コーヒーをつくっているという。しかしコーヒーの味は、こだわってはいるものの、実は大切なところではないとし、次のようなことを述べていた。

「蔵の中でコーヒーが長い時間をかけてできているのを眺めて、庭でベンチで腰掛け、外の風や空気を感じながらコーヒーをゆっくり味わう。そして水やコーヒーのことを話題にしながら会話をする。そのコーヒーがつくりだす全体の雰囲気といったものを楽しんでいただければと満足です



池上邸の蔵は、ゴールデンウィークの期間中限定で「池上喫水社」という名となり、水出しコーヒーがつくられる。


5月の間中松本でおこなわれている「工芸の五月」の一環として「みずみずしい日常」という活動が行われているが、池上喫水社はその企画の一つである。


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工芸の五月 】と【みずみずしい日常 】について


松本で昭和60年(1985)年から、毎年5月下旬に「あがたの森」を会場にして「クラフトフェア」がおこなわれている。昨年は280のブースでクラフト作家が各種工芸品(一部食品)を販売し、開催期間中の2日間で約54,000人の来場者があった。


しかしこれだけ多くの人達が松本に来ても、クラフトフェアの会場だけで、松本のマチを知らずに帰ってしまう。そこで平成19年(2007)からおこなわれるようになったのが「工芸の五月」である。


5月の期間中、工芸にちなんだイベントを松本市街地でおこない、多くある工芸店や工芸ギャラリーに足を運んでもらうとともに、マチを散策してもらうということを目的にしている。


また「工芸の五月」の一環として2年前の平成21年(2009年)からは「みずみずしい日常」という活動がはじめられた。


松本のマチを散策すると、いたるところで井戸やきれいな小川、水路が存在する。大量の雨や雪が周辺の山々から地下に浸透し、豊富な湧水として地表に現れるためである。それを古くから松本の人たちは飲料水にしたり、洗濯といった日常の生活用水として利用してきた。


“豊かななくらしとは日々みずみずしくあること”をコンセプトにして、「みずみずしい日常」では湧水があるマチの風景を楽しむことや、湧水がある暮らしの場を工芸で彩ることを提案する活動をおこなっている。



てくてく歩いていくと・・・・。

池上邸の脇に流れる水路


湧水が流れているため透明感がありきれい。














てくてく歩いていくと・・・・。

池上邸の庭にある井戸


このような井戸は松本中心市街地にはいたるところにある。















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てくてく歩いていくと・・・・。
ベンチに坐りながら、一人のんびりコーヒーとパンナコッタをのびり味わう。


コップや皿はガラス製の工芸品である。手になじむ感覚があり、無機質なものなのに、しっとりとした感触がした。長年使ってきたかのような親しみやすさもある。また作家の自己主張が表れていないのがいい。それがあると嫌味を感じるし、最初気に入っても飽きがくる。コップのような実用品であればなおさらである。こういうコップや皿のことを、いい工芸品というのだろう。


眩しい日差しであったが、空気が乾いており、少し風も吹いていたので、暑くはなく、縁側でひなたぼっこしている感じで気持ちよかった。


おいしいコーヒーと、親しみがもてる器、庭を見ると緑があり、また井戸から湧水が次々と流れていく。


落ち着ける空間だ。周りの人も誰も声を荒げるという人はいず、会話もおだやかで、にこやかな表情をしている。


L PACKの小田桐さんが先に述べていたコーヒーがつくり出す空間と、工芸と湧水がある風景が融合し、「みずみずしい日常」が池上邸の蔵や庭で表現されていた。


芸術の世界でいうインスタレーション(場所や空間を作品として、鑑賞というより体験させる芸術表現)である。そんな用語はアーティストではない私みたいな人間には関係ないが・・・。



この庭には、この企画に何らかのかたちで関わっている人がチラホラ。

てくてく歩いていくと・・・・。

左に仲良くベンチに座っているのは、陶芸家の田中一光さん夫婦。


田中さんは松本で工房をかまえながら、「松本クラフト推進協会」で理事をつとめ、広報活動やイベント運営に関わっている。


てくてく歩いていくと・・・・。 ガラス工芸作家の田中恭子さん。


コーヒーやパンナコッタが入ったコップや皿は彼女の作品。多摩美術大学卒業後、「あずみのガラス工房」に所属し、今年4月から独立し、安曇野で工房をかまえている。










てくてく歩いていくと・・・・。

左は入り口で受付・案内係をしていた茂原奈保子さん。

「みずみずしい日常」のことや「池上喫水社」について丁寧に説明をしてくれた。素直の性格でかわいらしい女のコ。


右は「都市計画家」であり「松本クラフト推進協会」事務局の倉澤聡さん。

個人的にはよくバーで出会うパイプタバコが似合う男で、好奇心旺盛で議論好きというイメージ。話しをしていると時々深刻になったりするが、この日は非常に明るくいきいきしていたのが印象的(写真より実物の方がかっこいい人です)。

 


「みずみずしい日常」に関わっている人達だけあって、皆みずみずしい。また私の周りにいるベンチに座ってコーヒーを飲んでいる多くの人もみずみずしく感じられる。


さて私は・・・・。


写真を撮影し、見知らぬ人にも話しかけたので、“ずうずうしい”かなと自嘲気味に感じたとたん、居心地が悪くなったので、その場を去ることにした(こういう文化行事はやはり20代後半くらいから30代の女性が多い。私みたいなオヤジがこの場に馴染むには、知的な雰囲気を漂わせるオシャレな感じがなければ。私にはないよな)。



てくてく歩いていくと・・・・。



てくてく歩いていくと・・・・。 さあ、いよいよ今週末の5月28日(土)、29日(日)は工芸の五月の最後を飾る「クラフトフェアまつもと 」が開催される(写真は昨年のもの)。


工芸品をながめるだけでも飽きないし、作家さんと直接話しができるのがうれしい。


人は大勢くるが少し売り場から離れると、ござを敷いてのんびり寝転んだり、本を読んだりもできる。


昨年に引き続き「食」のクラフトフェアもしているので、食事の心配もないし。


個人的には地ビール(クラフトビール)を売っているとこがあったらいいのにと思うが、持込みOKなので、「よなよなエール」あたりを持っていくつもり。


ただ天気が心配である。


雨が降ってもこのイベントはおこなわれるが、芝生で寝そべってゆっくりといったことができず、楽しさが間違いなく半減する。


昨年のクラフトフェアで気に入った作品があった。自分の心のツボにはまってどうしても気になった作品といった方が正しいかもしれない。


それは「オートマタ」という、ハンドルを回すことで動く木製おもちゃだ。


てくてく歩いていくと・・・・。 左の写真のものは、女性らしき人のマタが開いたり、閉じたりするというもの。


その他には熊が自分の頭を両手で胴体から離したり、くっつけたりするものもあった。


原田和明さんの作品である。彼に作品について聞くと「可愛い、シュール、ユーモラス」をテーマに大人が楽しめるおもちゃをつくっているとのこと。


「ハンドル回す人の心を振り回すのは快感ですので、やめられません」というイタズラ心旺盛の人である。


ただ普段イタズラをするようなタイプではなく、アイディアを作品として表現するのが好きだという。


もともと印刷会社に勤めていたが、会社員時代イギリス人のマット・スミスのつくる「オートマタ」に魅了され、20代の後半で脱サラしてイギリスに渡り、彼が技術を教えていた大学院に留学。帰国後実家がある山口市で工房(二象舎 )をかまえ、今に至っている。


脱サラして新しい世界に入る情熱がどこにあるんだろうという感じの、繊細そうで真面目な方であった。人に見せないだけで、自分だけの世界を大切にし、それを着実に形にしていくようなタイプの人なんだろう。


この作品は確か2万円ほどし、作者の人間性にもひかれたこともあり迷ったが、結局買わなかった。しかし山口に行った際には、工房に遊びにいくという約束をした。


クラフトフェアに今年も来るのか分からないが、またいつか会いたい人である。そしてその時は作品を買いたいと思っている。


このような工芸品や工芸作家との出会いが今年はあるだろうか?楽しみだ。


てくてく歩いていくと・・・・。

自作「オートマタ」を販売する原田さん。左にいて作品にかくれているのが奥さん。作品づくりの手伝いをしているという。




※「クラフトフェアまつもと」をおこなうあがたの森公園には駐車場はありませんので、ご注意を。


クラフトフェアが開催される5月28日(土)、29日(日)はバス料金が安くなり、松本市近郊路線バスが1乗車100円、1日バス券300円になるのでお得です(通常1乗車190円~1180円)。ダイヤも休日扱いではなく、本数が多い平日扱いになります。詳しくはこちら



てくてく歩いていくと・・・・。


「日本のこまやかなところが好きなんですよ」と流暢な日本語で語るのは留学生のロべーナさん(上写真)。


「歌舞伎・能やお茶といった伝統文化のこまやかさが好きです。それって現代の村上春樹みたいな小説や日本のマンガにも感じます」


そのこまやかさって?


「表現するのが難しいけど、すみずみまで気持ちがゆき届いているところっていって言いのかな。それが言葉づかいや身振りに表れ、それが形となって日本のさまざまな文化にみることができます」



4月のはじめ頃、松本ナワテ通りにある「Uo Cafe & Bar」で、夜、いつものようにスコッチウィスキーを傾けていると、この店の常連である男と一緒にきたのがロべーナさん。素敵なブロンドヘアをもち、知的な雰囲気を感じさせる女性だ。


私が二人に軽く挨拶すると、常連である彼がいつものパイプタバコを鞄から取り出しながら、にこやかにロベーナさんを紹介してくれた。


彼女はリトアニアから来た信州大学の留学生である。専攻は教育学で、大学では日本における英語教育のあり方を研究している。


日本もリトアニアと同じように大国に囲まれながらも独自の言語を保有している。そのような同じ境遇である日本が、どのような形で英語を取り入れ、英語教育をしているかを研究し、リトアニアのそれと比較することで、あるべき英語教育の姿を模索しているとのことだ。


参考 :リトアニアはバルト海東岸にあるバルト三国の一つで、長い間ソビエト連邦の構成国の一つであったが、平成2年(1990)に独立している。人口は325万人ほどであり、90%以上の人がリトアニア語を母国語としている。




話は続く。


ロベーナさんは、日本の都市といった空間にもこまやかさを感じるという。


「日本は散歩していて楽しいところが一杯あります。道とかが狭くて一見ゴミゴミしていますが、よく見ると家や店が整然と並んでおり、お店の前に出してある商品もきれいに整理され置いてあり、そんなところにこまやかさを感じます。それは建物の中に入っても同じです」


では日本で好きな場所はどこなの?


「伝統的なものが好きですから、京都が好きです。日本的なこまやかさが一番表現されている場所です」


てくてく歩いていくと・・・・。 松本はどう?


「松本も散歩していて、楽しいマチです。開発されて新しくなった部分が多いですが、所々に古い建物がまだ残っています。蔵をつかった古いお店がある中町を気に入っています(左写真)。ここには優しい人が多く、何回もいったお店があります」


日本にしばらく住んでみると、こまやかさとは違って、明らかにロべーナさんの感覚とは異なる日本人の特質にいろいろ気付いたようだ。それをいくつかあげていた。


自然を楽しむ風習があるところがおもしろいという。


「自然に咲いている花を見にでかけたり、また虫の音などを楽しむという風習もある。またそれが季節の行事みたいになっているのがおもしろい。ピクニックなんかいって花がきれいだと思うことはありますが、それを目的にわざわざいきません。そして鈴虫の音や蛍の光を楽しむといった感覚はないですね。このことをリトアニアの友人に話すとみんなびっくりします。日本には四季の変化がしっかりありますからこのような風習があるのでしょうね。リトアニアは冬が長くて、春・秋が短いという感じですから」


先輩・後輩といった関係には戸惑ったようだ。


「年齢や学年が上というだけで、さん付けで人を呼んだり、敬語を使ったり。こんなことはリトアニアではしませんので、話すたびにこの人は年上かなとか、学年が上かなとか考えてしまいます。常に丁寧に話しをすればいいんですけどね。しかし先輩に頼みごとされたら、従わなければならないというのは、ちょっと困りますね」


またみんなで頻繁にお酒を飲むという風習もあげていた。


「日本の場合、学校関係や職場関係の人とみんなで、1週間に数回といった高いペースでお酒を飲みにいきます。またそれを先輩から誘われると断りづらいようですし。リトアニアでも飲みにいくことはありますけど、友人とか恋人とかいった個人的な関係の人とですね。お酒は好きだし、日本人の人たちもことが好きだから、この独特な風習は楽しめましたけどね」




彼女が述べた日本人の特質が全てあるといっていい風習が花見だなと、私は話しながら思った。


花見は、桜を観る目的でおこなう行事であり、親しい友人が少人数というより、職場や学校関係の人たちが大勢で、桜の木の下で酒宴を開く。そしてこの季節、異なる人間関係同士で何回も花見をするという人もいる。


なぜ日本人は花見をこのようなかたちでするのだろう。桜を観にいくだけだったら一人でもいいのに。それは日本人の人間関係のつくり方にその答えはある。


先輩・後輩や年齢差といった物差しが基準になり、日本では人間関係がなりたっている。それが一旦なくなり、人間関係がフラットになる場所・時間がある。それは花見をはじめとする酒が入った宴会の席だ。


上座・下座といった座る順番で序列を示すようなことはせず(あっても最初だけ)、皆で輪になって車座になる。またその場で暴言を吐いたりしても、その場だけのこととしてすまされる。そして大抵は年上か先輩といったお金があるものが、宴会の料金を全額もしくは多めに支払ったりする。


このような宴会の席をおこない、対等に飲み、食い、歌い、話すことで、お互いの理解を深めることができ、それと同時に、普段の固定した人間関係から生じるさまざまな不満を解消する。


ここでいう宴会の席というのは、職場や学校帰りに皆でお酒を飲みにいく飲み会もそうだし、行事のあとの打ち上げや、お祭りの場もそれにあたる。特に桜の花見は日本全国この時期に一斉におこなわれ盛大だ。桜に対してもつ人々の特別な感情がそうさせるのだろう。


「なぜ桜に対して、日本人が特別な感情をいだくかと言うと、柳田国男は・・・・・」と言いかけたが途中でやめた。


酔いが回り、その分口がなめらかになり、上記したようなことをロベーナさんに話した。というより話してしまった。先に述べたように彼女には連れの男性がいたからである。その人は幸いいい人で、笑顔で話しを聞いてくれ、さらに私の言葉足らずのことは時折かみくだいたかたちで英語を交えてフォローしてくれた(本当の知識人です)。二人の時間を台無しにしてしまったのではないかと思い、話しを途中で止めたのだ。店の女主人をみるといい加減にしろよという顔で見ている。お酒の席だから“無礼講”ということで。



ロベーナさんと会ったのは4月のはじめ頃で肌寒い時期であった。まだ松本では桜が咲いていいなかった。


彼女はあと3日後には日本を離れて、リトアニアに帰るという。先日京都に行った時に桜を観たと言っていたが、花見を体験しただろうか?


松本で桜が咲いたのはそれから数日後のことだ。

てくてく歩いていくと・・・・。

4月18日 松本城の公園内で花見をする人たち。今年は少なめ。





この日私が酒を飲んでいたのは、昨年夏オープンしたばかりの「Uo Cafe & Bar」。


といっても昼間10時から18時までの間は「たいやき ふるさと」として営業している。その歴史は古く、戦後すぐにたいやき屋として創業しており、それを15年前に引き継ぎ今に至っている。


もともと「たいやき ふるさと」は夫婦で切り盛りしていたのが、夜のお店としてUo Cafe & Barをはじめたのは奥さんのケイコさん。昼間だけではなく夜も元気なマチにしたいという思いからである。


「緑町も含めてナワテ界隈は昔、夜も賑やかだったというが、今は人通りすらあまりなく静かです。それを何とか盛り上げてみたいと思ってはじめました。最近ナワテにも居酒屋とかバーの新店ができてちょっとうれしいですね」


てくてく歩いていくと・・・・。 「Uo Cafe & Bar」


営業:18時~ラストオーダー22時迄

    (6月末よりサマータイム営業19時~)

定休:日曜日(臨時休業あり)


「たいやき ふるさと」


営業:10時~18時

定休:不定休


URL:http://taiyaki-ya.com/  BLOG:http://taiyakiya.naganoblog.jp/

場所:松本市大手4-1 ナワテ通り


私がこのお店でよく頼むのが、あんこのたいやきである。


あんこたいやきといっても、ここでつくっているものは他で売っているものと大分違う。


あんこは自家製で、北海道産十勝小豆を使い、砂糖は白糖ではなく、黒糖・中双糖・三温糖の3種類の砂糖をブレンドし、甘さに角がたたないような工夫をしている。また少量の入れた沖縄精製の自然塩が甘さを引き立てる。


生地は長野県産地粉シラネ、平飼い鶏の自然卵といった最高級の素材を使い、パリッとする薄皮をつくり出している。


また中にぎっしりとあんこが詰まっているのもうれしい。


そして一つの型を使って、たいやき一個をつくるという「一本釣り」ならぬ「一本焼き」でひとつひとつ丁寧に気合が入ったつくり方をしている(※普通のたいやき屋は、一つの型で10個くらい一気につくる)。


こんなに素材と製法にこだわったたいやき屋、他に日本にあるだろうか。糸井重里に食べさせたら宇宙一のたいやきと言うに違いない(※富士吉田にあるお店のカレーを宇宙一と絶賛。それ以降その店は行列ができるようになる。もともと居酒屋であったが、現在はカレー屋として全国的に有名)。


宇宙一はともかく、実際おいしいので食べてみてほしい。あんこの他にも、カスタード、タイカレー、グラタン、ウィンナー等の種類があり、それぞれこだわったつくり方をしている。


このお店には日本酒や焼酎といったものもあるが、カエルラベルのオリジナル地ビールやエビスの黒生ビールを注文するお客が多い。またハンドドリップで一杯ずつつくるコーヒーも人気。


私自身はウイスキーが各種揃っているので、それを好んで飲んでいる。


山崎・マルス・マッカラン・ラフロイグ・ボウモア・カードゥ等。他より少々低料金でウイスキーを楽しめることがありがたい。


そのウィスキーがあんことよく合う。


ここでつくるあんこが優しい味わいなので、ウイスキーの麦の甘さを邪魔をしない。むしろ少々含んでいる塩が、ウイスキーの味の特徴をより一層引き立て、そして“もう一杯”と杯を重ねたくさせる。


小腹がすいている時はあんこたいやきを注文し、すいてない時はあんこだけつまみに頼むことにしている。あんこがウイスキーにあうなんて、ここに来るまで知らなかった。

てくてく歩いていくと・・・・。

「あんこたいやき」と「ラフロイグのハイボール」と「サラダ」



最近は空腹な人のために、タイカレーライスやパスタ・焼きソバ・チャーハンといったフードメニューも日替わりで出しており人気。もともとチャージ料金というものがない店なので、これだけ頼むとCafe&Barというより定食屋か大衆食堂のようだが・・・・。


てくてく歩いていくと・・・・。 いろいろ料理や飲み物について書いたが、この店で一番人気があるのは、“看板娘”であるケイコさんではないだろうか?


ケイコさんは、このお店の経営者であり、子どもがいる家庭の主婦である。しかしそういう面だけでは終わらないのがすごいところ。


日本中、世界中を旅した旅行家であり、夏になれば北アルプス等にいく登山家、また松本の魅力を伝える本を出版した編集者、ナワテ通りのマチづくりを企画・実践するプロデューサー、また松本の都市全体のあり方についてさまざまな提案をする活動家・・・・。


すごいバイタリティーである。


文章が長くなりそうなので、ケイコさんについては、また後日レポートしたい。



上の写真はお店で“美人時計”ごっこをしたもの。こんな客のむちゃぶりにもこたえてくれるおちゃめな方です。



てくてく歩いていくと・・・・。

“美人時計”の撮影に他の常連二人も参加して、撮影会状態に。アイドルですね(笑)


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Uo Cafe & Barは席数は少なく小さなお店で、最初入りずらいと思う人も多いようだが、観光客におすすめしたいお店だ。常連客は松本について詳しいし、なによりケイコさんが詳しい。マチ歩きが趣味(とうより特技)という方なので、地元の方でも気付かないような穴場をいろいろ知っている。


「うまいソバ屋はどこ?」「お城以外でおもしろいところはあるの?」「お勧めのスイーツは?」「おいしいラーメン屋は?」「土産物は何がいいかな?」「旅館でいいところは?」等のさまざまな質問に丁寧にケイコさんは答えてくれる。


たいやきをつまみながらお酒を飲み、ここで市販の観光ガイドに書いていないようなことを聞くって、いい思い出になると思いますよ。


日本そして世界から松本へ来られるお客さんをUo Cafe & Barは歓迎しています。