「日本のこまやかなところが好きなんですよ」と流暢な日本語で語るのは留学生のロべーナさん(上写真)。
「歌舞伎・能やお茶といった伝統文化のこまやかさが好きです。それって現代の村上春樹みたいな小説や日本のマンガにも感じます」
そのこまやかさって?
「表現するのが難しいけど、すみずみまで気持ちがゆき届いているところっていって言いのかな。それが言葉づかいや身振りに表れ、それが形となって日本のさまざまな文化にみることができます」
4月のはじめ頃、松本ナワテ通りにある「Uo Cafe & Bar」で、夜、いつものようにスコッチウィスキーを傾けていると、この店の常連である男と一緒にきたのがロべーナさん。素敵なブロンドヘアをもち、知的な雰囲気を感じさせる女性だ。
私が二人に軽く挨拶すると、常連である彼がいつものパイプタバコを鞄から取り出しながら、にこやかにロベーナさんを紹介してくれた。
彼女はリトアニアから来た信州大学の留学生である。専攻は教育学で、大学では日本における英語教育のあり方を研究している。
日本もリトアニアと同じように大国に囲まれながらも独自の言語を保有している。そのような同じ境遇である日本が、どのような形で英語を取り入れ、英語教育をしているかを研究し、リトアニアのそれと比較することで、あるべき英語教育の姿を模索しているとのことだ。
※参考
:リトアニアはバルト海東岸にあるバルト三国の一つで、長い間ソビエト連邦の構成国の一つであったが、平成2年(1990)に独立している。人口は325万人ほどであり、90%以上の人がリトアニア語を母国語としている。
話は続く。
ロベーナさんは、日本の都市といった空間にもこまやかさを感じるという。
「日本は散歩していて楽しいところが一杯あります。道とかが狭くて一見ゴミゴミしていますが、よく見ると家や店が整然と並んでおり、お店の前に出してある商品もきれいに整理され置いてあり、そんなところにこまやかさを感じます。それは建物の中に入っても同じです」
では日本で好きな場所はどこなの?
「伝統的なものが好きですから、京都が好きです。日本的なこまやかさが一番表現されている場所です」
松本はどう?
「松本も散歩していて、楽しいマチです。開発されて新しくなった部分が多いですが、所々に古い建物がまだ残っています。蔵をつかった古いお店がある中町を気に入っています(左写真)。ここには優しい人が多く、何回もいったお店があります」
日本にしばらく住んでみると、こまやかさとは違って、明らかにロべーナさんの感覚とは異なる日本人の特質にいろいろ気付いたようだ。それをいくつかあげていた。
自然を楽しむ風習があるところがおもしろいという。
「自然に咲いている花を見にでかけたり、また虫の音などを楽しむという風習もある。またそれが季節の行事みたいになっているのがおもしろい。ピクニックなんかいって花がきれいだと思うことはありますが、それを目的にわざわざいきません。そして鈴虫の音や蛍の光を楽しむといった感覚はないですね。このことをリトアニアの友人に話すとみんなびっくりします。日本には四季の変化がしっかりありますからこのような風習があるのでしょうね。リトアニアは冬が長くて、春・秋が短いという感じですから」
先輩・後輩といった関係には戸惑ったようだ。
「年齢や学年が上というだけで、さん付けで人を呼んだり、敬語を使ったり。こんなことはリトアニアではしませんので、話すたびにこの人は年上かなとか、学年が上かなとか考えてしまいます。常に丁寧に話しをすればいいんですけどね。しかし先輩に頼みごとされたら、従わなければならないというのは、ちょっと困りますね」
またみんなで頻繁にお酒を飲むという風習もあげていた。
「日本の場合、学校関係や職場関係の人とみんなで、1週間に数回といった高いペースでお酒を飲みにいきます。またそれを先輩から誘われると断りづらいようですし。リトアニアでも飲みにいくことはありますけど、友人とか恋人とかいった個人的な関係の人とですね。お酒は好きだし、日本人の人たちもことが好きだから、この独特な風習は楽しめましたけどね」
彼女が述べた日本人の特質が全てあるといっていい風習が花見だなと、私は話しながら思った。
花見は、桜を観る目的でおこなう行事であり、親しい友人が少人数というより、職場や学校関係の人たちが大勢で、桜の木の下で酒宴を開く。そしてこの季節、異なる人間関係同士で何回も花見をするという人もいる。
なぜ日本人は花見をこのようなかたちでするのだろう。桜を観にいくだけだったら一人でもいいのに。それは日本人の人間関係のつくり方にその答えはある。
先輩・後輩や年齢差といった物差しが基準になり、日本では人間関係がなりたっている。それが一旦なくなり、人間関係がフラットになる場所・時間がある。それは花見をはじめとする酒が入った宴会の席だ。
上座・下座といった座る順番で序列を示すようなことはせず(あっても最初だけ)、皆で輪になって車座になる。またその場で暴言を吐いたりしても、その場だけのこととしてすまされる。そして大抵は年上か先輩といったお金があるものが、宴会の料金を全額もしくは多めに支払ったりする。
このような宴会の席をおこない、対等に飲み、食い、歌い、話すことで、お互いの理解を深めることができ、それと同時に、普段の固定した人間関係から生じるさまざまな不満を解消する。
ここでいう宴会の席というのは、職場や学校帰りに皆でお酒を飲みにいく飲み会もそうだし、行事のあとの打ち上げや、お祭りの場もそれにあたる。特に桜の花見は日本全国この時期に一斉におこなわれ盛大だ。桜に対してもつ人々の特別な感情がそうさせるのだろう。
「なぜ桜に対して、日本人が特別な感情をいだくかと言うと、柳田国男は・・・・・」と言いかけたが途中でやめた。
酔いが回り、その分口がなめらかになり、上記したようなことをロベーナさんに話した。というより話してしまった。先に述べたように彼女には連れの男性がいたからである。その人は幸いいい人で、笑顔で話しを聞いてくれ、さらに私の言葉足らずのことは時折かみくだいたかたちで英語を交えてフォローしてくれた(本当の知識人です)。二人の時間を台無しにしてしまったのではないかと思い、話しを途中で止めたのだ。店の女主人をみるといい加減にしろよという顔で見ている。お酒の席だから“無礼講”ということで。
ロベーナさんと会ったのは4月のはじめ頃で肌寒い時期であった。まだ松本では桜が咲いていいなかった。
彼女はあと3日後には日本を離れて、リトアニアに帰るという。先日京都に行った時に桜を観たと言っていたが、花見を体験しただろうか?
松本で桜が咲いたのはそれから数日後のことだ。
4月18日 松本城の公園内で花見をする人たち。今年は少なめ。
この日私が酒を飲んでいたのは、昨年夏オープンしたばかりの「Uo Cafe & Bar」。
といっても昼間10時から18時までの間は「たいやき ふるさと」として営業している。その歴史は古く、戦後すぐにたいやき屋として創業しており、それを15年前に引き継ぎ今に至っている。
もともと「たいやき ふるさと」は夫婦で切り盛りしていたのが、夜のお店としてUo Cafe & Barをはじめたのは奥さんのケイコさん。昼間だけではなく夜も元気なマチにしたいという思いからである。
「緑町も含めてナワテ界隈は昔、夜も賑やかだったというが、今は人通りすらあまりなく静かです。それを何とか盛り上げてみたいと思ってはじめました。最近ナワテにも居酒屋とかバーの新店ができてちょっとうれしいですね」
「Uo Cafe & Bar」
営業:18時~ラストオーダー22時迄
(6月末よりサマータイム営業19時~)
定休:日曜日(臨時休業あり)
「たいやき ふるさと」
営業:10時~18時
定休:不定休
URL:http://taiyaki-ya.com/
BLOG:http://taiyakiya.naganoblog.jp/
場所:松本市大手4-1 ナワテ通り
私がこのお店でよく頼むのが、あんこのたいやきである。
あんこたいやきといっても、ここでつくっているものは他で売っているものと大分違う。
あんこは自家製で、北海道産十勝小豆を使い、砂糖は白糖ではなく、黒糖・中双糖・三温糖の3種類の砂糖をブレンドし、甘さに角がたたないような工夫をしている。また少量の入れた沖縄精製の自然塩が甘さを引き立てる。
生地は長野県産地粉シラネ、平飼い鶏の自然卵といった最高級の素材を使い、パリッとする薄皮をつくり出している。
また中にぎっしりとあんこが詰まっているのもうれしい。
そして一つの型を使って、たいやき一個をつくるという「一本釣り」ならぬ「一本焼き」でひとつひとつ丁寧に気合が入ったつくり方をしている(※普通のたいやき屋は、一つの型で10個くらい一気につくる)。
こんなに素材と製法にこだわったたいやき屋、他に日本にあるだろうか。糸井重里に食べさせたら宇宙一のたいやきと言うに違いない(※富士吉田にあるお店のカレーを宇宙一と絶賛。それ以降その店は行列ができるようになる。もともと居酒屋であったが、現在はカレー屋として全国的に有名)。
宇宙一はともかく、実際おいしいので食べてみてほしい。あんこの他にも、カスタード、タイカレー、グラタン、ウィンナー等の種類があり、それぞれこだわったつくり方をしている。
このお店には日本酒や焼酎といったものもあるが、カエルラベルのオリジナル地ビールやエビスの黒生ビールを注文するお客が多い。またハンドドリップで一杯ずつつくるコーヒーも人気。
私自身はウイスキーが各種揃っているので、それを好んで飲んでいる。
山崎・マルス・マッカラン・ラフロイグ・ボウモア・カードゥ等。他より少々低料金でウイスキーを楽しめることがありがたい。
そのウィスキーがあんことよく合う。
ここでつくるあんこが優しい味わいなので、ウイスキーの麦の甘さを邪魔をしない。むしろ少々含んでいる塩が、ウイスキーの味の特徴をより一層引き立て、そして“もう一杯”と杯を重ねたくさせる。
小腹がすいている時はあんこたいやきを注文し、すいてない時はあんこだけつまみに頼むことにしている。あんこがウイスキーにあうなんて、ここに来るまで知らなかった。
「あんこたいやき」と「ラフロイグのハイボール」と「サラダ」
最近は空腹な人のために、タイカレーライスやパスタ・焼きソバ・チャーハンといったフードメニューも日替わりで出しており人気。もともとチャージ料金というものがない店なので、これだけ頼むとCafe&Barというより定食屋か大衆食堂のようだが・・・・。
いろいろ料理や飲み物について書いたが、この店で一番人気があるのは、“看板娘”であるケイコさんではないだろうか?
ケイコさんは、このお店の経営者であり、子どもがいる家庭の主婦である。しかしそういう面だけでは終わらないのがすごいところ。
日本中、世界中を旅した旅行家であり、夏になれば北アルプス等にいく登山家、また松本の魅力を伝える本を出版した編集者、ナワテ通りのマチづくりを企画・実践するプロデューサー、また松本の都市全体のあり方についてさまざまな提案をする活動家・・・・。
すごいバイタリティーである。
文章が長くなりそうなので、ケイコさんについては、また後日レポートしたい。
上の写真はお店で“美人時計”ごっこをしたもの。こんな客のむちゃぶりにもこたえてくれるおちゃめな方です。
“美人時計”の撮影に他の常連二人も参加して、撮影会状態に。アイドルですね(笑)
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Uo Cafe & Barは席数は少なく小さなお店で、最初入りずらいと思う人も多いようだが、観光客におすすめしたいお店だ。常連客は松本について詳しいし、なによりケイコさんが詳しい。マチ歩きが趣味(とうより特技)という方なので、地元の方でも気付かないような穴場をいろいろ知っている。
「うまいソバ屋はどこ?」「お城以外でおもしろいところはあるの?」「お勧めのスイーツは?」「おいしいラーメン屋は?」「土産物は何がいいかな?」「旅館でいいところは?」等のさまざまな質問に丁寧にケイコさんは答えてくれる。
たいやきをつまみながらお酒を飲み、ここで市販の観光ガイドに書いていないようなことを聞くって、いい思い出になると思いますよ。
日本そして世界から松本へ来られるお客さんをUo Cafe & Barは歓迎しています。