「ヴィヨンの妻~桜桃とタンポポ~」 | てこの気まぐれ雑記帳

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太宰治生誕100年記念映画「ヴィヨンの妻~桜桃とタンポポ~」を観る映画

破滅型作家・大谷は太宰その人とみていいだろう。


てこの気まぐれ日記-ヴィヨンの妻


公開されたばかりなのに、ネタバレバレです。これから観る予定の人は、読まないでくださいm(_ _ )m

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妻以外の女とも深い関係を結び、親切にしてくれる飲み屋・椿屋夫婦(伊武雅刀、室井滋)には借金ばかりか盗みまで働き、その金をパーッと使ってしまうハチャメチャ男・作家の大谷(浅井忠信)。

夫の借金返済のため、幼子を抱えながら椿屋で働くようになる大谷の妻・佐知(松たか子)。


「女には、幸福も不幸もないものです」

「男には、不幸だけがあるのです。いつも恐怖と、戦ってばかりいるのです」

「生きるのは怖い、死ぬのも怖い、いまは佐知がもっと怖い」

「佐知は、だる~くなるほど素直です」

常にマイナス志向で生きることに苦悩し、「生まれたときから、死ぬことばかり考えて」いて、愛人の秋子(広末涼子)と無理心中まで図る大谷の言葉。

どんなことをやらかしても佐知が側にいてくれるであろうことが、大谷の、かろうじて生きていく力になっているようだ。

いつ佐知が離れていくか不安であり、佐知を幸せに出来ない自分が不甲斐なく、佐知の側にいることで精神の安定が保たれるような…。


そんな夫をあるがままに受け入れ、浮気にも慌てず騒がず嫉妬せず、夫の生き様の最大の理解者でもある佐知の、しっかりと地に足着いた、しなやかな逞しさ。


大谷のファンである椿屋の客・岡田(妻夫木聡)は、「タンポポの花1輪が誠実」と美しく明るい佐知にいつしか恋心を抱くようになり、かつての佐知の恋人の弁護士・辻(堤真一)も再会した佐知に好意を寄せる。

……嫉妬する大谷。


心中未遂事件の後、殺人容疑で逮捕された夫に妻は問う。

「女性はどなた?」

「知らない」

「心中され、嘘つかれ、どこに愛があるのか?夫を女にとられた妻は惨め。でも、生きていけそう」。

警察の廊下で擦れ違った佐知と秋子。秋子の小さく「勝った!」的な表情にも動じない。


辻に、弁護料を身体で支払ったらしくチョットだらしなく着崩れた佐知。

椿屋に先に戻っていた大谷は聞く。

「何をしてきた?」

「人に言えないこと」

「やっぱりコキュに成り下がった」。

佐知をよろしく頼むと椿屋を出た大谷を追う佐知。

坊やにと貰った桜桃を並んで食べ、種を飛ばしながら佐知はつぶやく。

「人非人でもいいじゃないの。私たちは、生きていさえすればいいのよ」。

手を握り合う2人。


大谷と秋子の濡れ場の必要性を感じない。2人が愛情故に心中を図ったのではなく、死にたい2人の体と心が密着し合ったことは、濡れ場がなくてもわかるし、あまり綺麗な映像でもないと思った。

火の気のない寒い夜に、佐知の寝間着は薄すぎないか?

貧しい家に育ったという佐知なのに、少しばかり上品!

夫婦の会話が丁寧語で、2人の距離感が想像される。


映画は、太宰の作品から「ヴィヨンの妻」をメインに、「思ひ出」「灯籠」「姥捨」「きりぎりす」「桜桃」「二十世紀旗手」などを融合させているとのこと。

痛みやすいが愛らしい桜桃は大谷を、華やかではないが誠実な美しさを持つタンポポは佐知を象徴している。


また、cocu(コキュ=フランス語)は妻を寝取られた夫のこと。


タイトルの「ヴィヨン」は、1431年生まれとされるフランスの詩人フランソワ・ヴィヨンのこと。殺人、強盗、傷害などの事件を起こし、一時絞首刑を宣告されたが、その後追放刑に減刑されて1463年にパリを追放された後、消息不明。


根岸吉太郎監督はこの映画で、モントリオール映画祭最優秀監督賞を受賞したグッド!


短編集『ヴィヨンの妻』は新潮文庫から刊行。