DEATH ZONES - GENOCIDE ORGAN

 

暫く前から喧伝されていたGenocide Organの2LP。冒頭の訛りの酷い英語が流れてくる辺りからすぐに不穏な空気が流れ始める。それぞれのアートワークに書かれた言葉やアフガニスタンを想起させる名称、退役軍人治療施設の名称、世の中で今起きている凶事を想起させるような曲名、剝き出しの悪意。そしてLP盤のアートワークに書かれた(旧日本軍の用語をドイツ人に使うのは失礼にあたるだろうが)玉砕宣言とも取れるような言葉。「まだ最高の瞬間は訪れていない」と言う言葉がフェードアウトした後に全てを沈黙させるような圧迫感を伴った音の波が圧し掛かってくる。お互いの不信の中で誰何が行われ、地下室に押し込められた人の耳には旧式の換気装置のリズミカルで無機質な騒音と送風孔から時折聞こえる虚ろな叫び声が聞こえてくる。「必死では無いが決死である」と言われているのか?明瞭にそれが何であるかを理解できぬまま覚悟を迫られ、その後にニュースでその場のおぞましさを知らされる。混乱の中で通信は途絶し、相次ぐ脅威の中で息を潜め己の体を出来るだけ小さくし身を守るしかない。通常の事が異常になったとされる状況の中、銃声が響き、通常時であれば「そんなものが存在するのか」と疑問を抱くであろう「悪」そのものを見た人間のインタビューが流れてくる。人の血が一定のリズムで流れるかのように機械音はその音を高く低くする。一枚目の最後に地獄と非地獄の間の門に立った人は語る。非情な運命は「永遠に血を流せ」と言い、また何かは「私はこの門で待つ。私は既に神ではなくなった」と語る。人は聞き手の理解を得られるか否かも分からぬまま己の見たものを話し続ける。

 

人は何時ものように無自覚に美徳を語り続けるが矛盾はそちこちにあり、人は死に、死体は次々と積まれていく。その様な中でも音は殆ど起伏を見せずに流され続け、何かを伝える声はアジテーションと言うよりも誰も聞いていないとしても構わないと思う話者の演説、応答を期待しない電信、己を真摯に説き伏せるような独り言の様に発せられる。そんな中でその場を知るものが情を知りながら傍観していた者に強い批判を加える。突如、無秩序が叫ばれる。野次と規則性のない破壊音、サイレンの音の様なもの。流れる音と語り口に緊迫感が増す。静かな病室の中では却ってあの場の狂騒が思い出され、地獄ではない場所が地獄と化す。最早、正義がどちらにあるかを人や法は認識出来ず全ては神の元に投げやりに放り出される。その無関心、無責任の中で齢の長幼は意味を失う。その傍らを濁音は相変わらず流れ続ける。何か金属が誰かの手で何かを訴えたいかの様に叩かれている。その音は小さくなり、やがて消える。あの狂騒もそれを巡る一見活発な議論も全ては作り上げられたものだったのか?最後の最後に全てをリセットし押し流すかのように雑音はその流れの勢いを強くし全てが終わる。

Einsturzende NeubautenのKollapseやMaria Zerfallの際にも書いたがその時代が作らせる音楽というものがあると思う。恐らく何時頃からか始まったGenocide Organの音の虚無化(2003年の初来日時に既に nihil est nihil est.... という紙を配っていたにせよ)や作品にこれ見よがしにMade in Mannheim(ドイツではなく)記すようになったことは我々が知るドイツやヨーロッパまたその周辺の時代状況と無関係でないと思っている。混沌の首の羅入さんはかつてインタビューで「事ここに至っては、私のように政治に無関心な物でも、政治的発言をせざるを得ない」と話されていたが果たしてそれと似た心境が彼らの中にあるか否か。単なる観察者、単なる山の上に住む傍観者と思われている彼等であるが実は現時点では若しかしたらwhistleblowerであるのかもしれない。

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