V.A.-the night and the fog

ブラックメタル界隈からのノイズへの浸食。今、それは大いに行われその全貌を掴もうとするのは最早一個人の手に余る。それでもたまにノイズ界隈でそれらしきものを発見すれば玉石混交であることを承知で入手するように心掛けている。当初は所謂ハーシュノイズから遠く離れたところで始まったそれもステイトメントだけではなく音の強度も、HNWやパワーエレクトロニクスの勃興に歩調を合わせるかのように、増してきたように思う。
所謂極右と見做されるであろう個人主義者、民族主義者、理想主義者がやっているノイズを追い掛けること。その全てがここから始まったという一作を挙げろと言われたなら迷いなくこの作品を選ぶだろう。何と言っても一曲目のSS1488である(https://ameblo.jp/teitoy/entry-12666313973.html)。DEATH MARCH TO TREBLINKAというPCから遠く離れた容赦のない曲名。愛想の全くない”Promotional Advertisement"のアートワーク。曲調はノイズでは全くないものの「メタル」の概念から遥かに遠く離れたシンセ音と総統演説がブラック「メタル」と同じ音盤に納まっていることに衝撃を受けた。また個人的経験からどうしても反応してしまう「オーストリア」のバンドであることでとどめを刺された。完全に魅了された私はこの時点で全く単独作品を出していないバンドがここに案内されているCattle Car Productions(!)から次回デモを出したときは絶対に(コンタクト先不明であるにもかかわらず)電子雑音でインタビューしてやろうと心を躍らせた。しかしながら以降、彼らは約20年間沈黙し、電子雑音も廃刊となり、ブラックメタル及びノイズとそれを取り巻く情勢も大きく変わった。何よりも世の中全般が大きく変わった。
しかし当然ながら、移り行く世の中でも価値の変わらぬものはある。この作品にある言葉。Black Metal is more than mirely music.という言葉などは正にそれであろう。個人的にはBlack Metalに限らずmirely musicで無いものを相も変わらず入手し続けている。このスタンスは彼らの固い志と同じく生涯変わらないもの思う。そういう意味では、多少大仰ではあるものの、生きることに指針を与えてくれた作品の一つと言ってもよいかもしれない。