6. 影丸 VS 双条鞭 再び
◆この話は幻之丞と<しらない>の死闘が始まろうかという刻限までさかのぼる。
◆東海道も日本橋へあと3つの宿、8里あまり(30km強)と迫った程ヶ谷宿
(昭和6[1931]年保土ヶ谷に改称)で、江戸に向かうと思しき若侍が茶屋で
ダンゴを食していた。
すると、どこからともなく、二本の皮でできたひも状のものがダンゴの皿と
近くの緋毛氈を音もなく薙いでいった。
次の瞬間には、皿の残りのダンゴはなくなり、かわりにダンゴと茶代が
載っていた。
影丸「ご老体、お戯れもほどほどになさいませぬか?それに、人違いでは
ございませぬか、拙者・・・」
半月斎「いや、これほどのことをされてあわてず騒がず茶を召し上がり続けるとは、
常人にはかなわぬこと。
夫々(そもそも)鍛えられ上げられた胆力、スキのない守りから可能ならしめる
所作と拝察申した。
して、その御仁こそ、世に二人とはおるまい天賦の才の持ち主、伊賀一の
手練(てだれ)、影丸殿・・・
しかも、お召し上がりのダンゴは、上新粉をわずかに混ぜ、餡には小豆の甘味を
消さないよう、和三盆をチビっと加え、(チュバチュバ--キンチョーした場面でオシャブリ
すな!!)ことの他、上品なお味に仕上がってございますな。
いや、そのお歳でこーいったものを御しょもーなさるとは、味覚ももはや<わび・さび>の
世界にボツニューされておいでの証、これを当(まさ)に心・技・体といわずして・・・」
影丸「なるほど。(あ~うっせおやじ。。。)・・・貴方様は。「飛騨に双条鞭あり」と謳われた方の生まれ
変わりでございましょうや?もしや、円月斎殿のお身内の方とお見受けいたしました・・・。
ですが、ダンゴの件は御撤回願いたい!!」
半月斎「いかにも。半月斎と申しまする。
ダンゴの件は、やはりジューヨー案件でございましょーから、我が飛騨の里の
虎の巻、貴方様のプロフィールのところ、<木の葉の術が切り札>の次に
追加記載させていただきますぞ。」
影丸「それでは、私が団子好きであることは、飛騨の皆さまに知れ渡ってしまう・・・
ところで、それは、飛騨の忍者隊が私を攻める上で何かこれといった利点がありまショーか?」
半月斎「えーえー、それはもう・・・。貴方様を毒団子で仕留めるとか・・・」
影丸「ホホー、それは考えてもみませんでした。今後、私は、茶屋の団子にも注意を払わなくては
ならなくなったのですね?
ところで、始めに申し上げておきますが、この影丸、同じ手口は、二度通用しませぬぞ。」
半月斎「それは、<あてない宮殿の用兵(傭兵)>に当てた言葉ではありませぬか?」
影丸「書き手がいくらアホでも [再度、同じ轍は踏みますまい。え?自信ないから、飛ばして次行って
くれって?]
それくらいふくしゅーしておこーよー・・・だそうでございます。
では、半月斎殿。ここは人通りも人家も繁華ですが、よそ様には迷惑をかけたくありません、
闘いの場を変えましょう?」
半月斎「さなり。年寄りは何をやらせても気が利きませんな。影丸殿はすべてに行き届いたお方ぢゃ。
では、とりあえず、街道筋からでましょうぞ。確か、一~二丁(一丁≒109m)も歩けば、獣道
ほどが細々と付いた岩がちの土地に出られるはず・・おー、この辺、この辺。
ここでは、いかがでしょうか?」
影丸「(確かに・・・程ヶ谷宿の裏はこんなふーになっていたのか。粘土質や砂地が半々に混ざった
足元が取られそうな地面・・・大小さまざまな独立丘を思わせるような奇岩・・・トーゼン鞭が
飛んでくる方向などわかろうはずもない・・・死角だらけ・・・ダナ・・・
やつはこのカイワイで充分下調べをして、自分のお道具がどこで一番力が発揮されるかを
吟味した上で、ここをオレとの戦いの場として選んだのだ・・・宿場から街道裏への案内も
気の抜けるほど簡単に終わってしまったではないか。
よーするに、この場所ははじめてきた場所ではないってことだ。
そして、もちろん、この影丸を、グーゼン、この宿場で追いついたように見せかけては
いるが、待ち伏せをしていたのだ。
作戦の現実的な立案などは、円月斎の1枚上手だ・・・
後はヤツの鞭の・・・しまった!!!ヤツを見失ったぞ!!!!?)」
半月斎「影丸殿、心の準備はできましたかの?」
影丸「おーっ、岩から脇差しが出てきた。(奴は刑部らと同じ隠形の術にもたけているらしい。
ますます、厄介なことになった・・・)」
半月斎「さすが!!今のは、貴方様以外の方ではかわせなかったでしょーな。
それでは次の手と行きますか・・・・」
影丸「(いかん。すっかり奴の手のひらの上で戦わされている。
何とか打開せんと。
木の葉の術は見えない姿の相手にも有効なこともあるが、こー、相手が百戦錬磨だと、
目標に木の葉が流れて行っているかどうかがわからん。
ただ・・・)
おー、鞭が来た?!何だ今の形は。双条ではなかった・・・」
半月斎「今のたった一回の鞭の動きで円月斎の鞭と違うことによくお気づきになりましたな。
私の鞭は利き腕の右が双条鞭、左が多条鞭と呼んでおります。
影丸「(そー言えば日中は谷風であるから、自分が下にいて奴が上にいれば、こちらが風上
というわけだ。何も木の葉にこだわらなくとも、低地を走りながら薬だけまいたっていい
はずだ。やってみる価値はあるかもしれないな)。」
▽
(ぴぽ)・・・しばらく走って影丸はしびれ薬をまいてみた。確かに薬はゆっくりとした速さで
上昇気流に乗って上空に向けてひろがっていっていくようにみえた。
△
影丸「(う、また鞭が来た。今度はアザミのようなギザギザ頭の様な鞭だ。多条鞭というのは柔らかな、
イカやタコが海中をおよぐ時の様子を模したごときものを連想していたが、先端の何寸かは
鉄芯が入っているようで硬いのだな。
少し身体がけずられたか?出血しているな?
一体、やつはこちらの動きをドコデどーやってみているのか?)
(そー言えば地面は多少足がとられそーな、砂地と粘土質がまじりあった地質であったな。
こちらの動きを直前の足跡から、次の進路を読み切って技を仕掛けてきているとしたら・・・
とんでもない相手とあたってしまったことになる・・・)
(しかし・・・そーすると、反対に、こちらも同じことができるのかもしれない。鞭が飛んで来る
方角から現在地を、そして、次に移動する場所を予想して岩山越しに、山なりの手裏剣を
幾方向か投げ込んでみてはどうだろうか?)」
▽
(ぴぽ)・・・3箇所ほど山なり軌道の手裏剣に、手ごたえを感じた影丸は間髪いれずそちらに向かうが・・・
△
影丸「(これは・・・空蝉(うつせみ)!!・・・岩に穴まで掘ってここに声を反響させて・・・
何と、準備周到なことか・・・・
敵を倒すには手段を選ばぬ人だ・・・・まだまだ何か出てきそうだな・・・)
( いや、これで、かえって、相手が、当然ながらこちらの至近から技を仕掛けてきて来ていることが
わかったようなものではないか。
オレは何をびくびくしていたのだ。高所から<木の葉火輪>を用いれば、少なくとも相手をしびれ
させるか一旦でも、術をかけた外側に相手を遠ざけることができたはず。)
▽
(ぴぽ)岩山に上る影丸
△
影丸「(おいおいあたまがくらくらする。どーしてだ?)。」
半月斎「影丸殿。先ほどから拝見しておりますと。始めのうちは地面の上を走っておいででした。
次に貴方様は、昼間は谷風だから、<地面を走っているうちは>木の葉に似た薬の
撒き方をしておけば私は近づかないと考えられた。
しかし現実には、先にイガイガがついた鞭で傷つけられた。
何とか局面を打開したいと考えて、貴方様は、今こうして岩山の上に登ってはみたものの
頭がくらくらされておられるようだ。
貴方様ははじめ御自身の御身を考えて岩山に上らなかったのではなかったのですかな?
そんなことをなされば、それこそ御自分で下から撒いて舞い上がった薬をすいこんでしまう
ことになる。」
影丸「いや、うかつでしたがあのアザミの結実した格好にもにた鞭の先には何か塗ってありました
のですね。私が撒いた薬は、今回それほど体には影響が出ない量なのです。
半月斎殿がお使いになったしびれ薬はおそらく致死量に至らぬほどに薄めたトリカブトでしょう。
私は、このままでは貴方に一方的にここで打たれてしまうだけです。
しかし、仲間のためにも貴方を、程ヶ谷から出すわけにはいきません。
<木の葉火輪>」
半月斎「それでは私そろそろ失礼させていただきましょーか。影丸殿、あなたさまは、御自分の火術の
中心で、シンボルの木の葉と運命を共になさるのも幸せでしょう。」
影丸「逃がさん、貴方はそこだ!!」
半月斎「う・・・なぜ!おわかりになりました?・・・・・ふふ・・・それでは、失礼いたしますぞ。」
影丸「この、切羽詰まった状況で<傀儡くぐつ>とは・・・
半月斎殿、貴方の懐の深さにほとほと感心いたしました。しかし、片方に傀儡あらば、
操り師の貴方の居場所は正反対のそこです!!」
半月斎「やはり・・・傀儡が見破られたあたりから、私も・・・という予感はしておりました。
でも、傀儡の反対側に私がいるなどとは、どうして・・・?」
影丸「あなたのお名前からです。」
半月斎「??」
影丸「半月は満月に向かう場合と、新月に向かう場合がありますが、何か空に異変が
あるときは、太陽ー地球ー月と月食になっていることが多いと聞きます。
それがヒントになりました。御自分の技の要をお名前にするとは、自信が御有り
だったのですね。」
半月斎「いや、名前にはそれほどの意味はないのですが・・・
・・・影丸殿、やはりあなた様はうわさどおり、いやそれ以上にお強い。
貴方様がおらっしゃる限り、この勝負飛騨組の負けじゃ。
早くこの場からお逃げなされ。」
影丸「・・・といわれても、私にもこの火勢をのがれきれるほどの、そんな力は残っては
いないのです。半月斎殿、私でよければ一緒に死んでいただけませんか?
これも何かの縁、運命だと思って…」
半月斎「おー、もったいのーお心遣い。伊賀組は、皆さん、そーおやさしーのですかの?
やさしー、心根の(忍者)組は強いと昔から聞いとりますからの。」
影丸「そろそろきこえなくなってきたなー・・・トリカブトきくなー・・・」
??「影丸様、しっかり、影丸様!!」
影丸「味方?そちらの御老体も一緒に運んでくれ・・・」
??「定員オーバーだけどやってみるか・・・」
影丸「定員オーバーって何だ?・・・」
??「影丸様、影丸様、お気づきになられましたか?」
影丸「あ、お主、彦三・・・であるわけはないか・・・?」
??「よく父と間違われます。」
影丸「何と息子殿か。拙者を救ってくれたのは、してあの火勢からどのようにして?」
??⇒飛行僧「大凧でございます。」
影丸「そーか、かたじけない、いくら礼を述べてもいい足りない。」
飛行僧「もったいないお言葉、飛行増感激たします。」
影丸「ん、おやじ殿の名をそのまま使いおるか?」
飛行僧「いえ、そのー若葉城に影丸様と外働きに参ったときにはもう私、
凧に乗る練習をしておりまして・・・」、
影丸「なに?アヤツ全然そんなこと!!」
飛行僧「はあ、そういうひとでしたから、それで私が凧を自在に操れるよーにと
<飛行僧>という名にしたとか。」
影丸「あいつ、仕事は人一倍できたのだが。」
飛行僧「申し訳ありません。」
影丸「お主が謝る筋ではないよ。」
飛行僧「ところで影丸様が御指示になった、あの御老体はどなたでございますか?」
影丸「御指示って。俺がお主に運べと言ったのか?」
飛行僧「ハぁ・・・。」
影丸「大凧に2人のせてくれたのか?」
飛行僧「はい。」
影丸「すごいではないか、お主の技量。この人は・・・・ちょっとまて、・・・飛騨の衆か?」
独眼房機甲「いかにも、独眼房機甲と申す。
半月斎殿倒され申したか。
ということは・・・そこもとは・・・影丸殿か?」
影丸「なぜ私が影丸と?」
独眼房「半月斎殿を破る忍、今は伊賀では影丸殿をおいて他にはおるまい。」
飛行僧「影丸様、この男拙者が。」
影丸「待て、やつには殺気がない。我々が何をしているか確かめに来ただけのようだ。」
独眼房「さすがうわさ通りの影丸殿、その通り。して?」
影丸「いやあまりにも半月斎殿の戦いぶりが見事だったので、あの火の中で無為に灰になって
もらいたくなくて、しかも、手負いの拙者に、「今なら逃げられるからお前だけは逃げろ」と
奮い立たせてくれたり、と<忍の前に立派な侍、立派な人物>でした。きちんと葬りたくて、
この飛行僧に申しつけて一緒に運び出したところだったのだ。」
独眼房「それはかたじけない。寒天斎に代わって礼を申し上げる。
飛行僧殿もさしたる縁なきところ、このような志賜り重ねて御礼を申す。
そして必ず今の話、寒月斎に伝え申(も)そう。
それでは今日のところは、ごめん。」
飛行僧「なかなか強そうなヤツですネ・・・まるでスキがなかった・・・。」
影丸「ん、たしかあいつのおやじかな?そーとー強かったし、仮死の術というかわった手を持っていた。
大体にして、あーいった堅苦しい挨拶をする連中に曲者が多い・・・。
さー、葬るの手伝ってくれ。
でも、お主が来てくれなかったら今頃俺がコーなっていたんだな。」
飛行僧「影丸様に限っては、最後はなんとかなさっていましたよ。」
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公儀隠密伊賀組 <メンバー表> 飛騨忍群
● 陣頭指揮者(●:臨時)
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(●) (6代目、服部半蔵) ●首領 寒天斎
●小頭 影丸 X 首領相当 半月斎
日輪 天真 大五郎
脳天鬼 救命丸(くめまる)
十六夜幻之丞 独眼房機甲
後鬼 ******************
村雨源太郎 ▲副頭領 しらない・しらないぜ
彦三⇒息子・飛行僧 刑部補
左近丸縁者※ 靄丸
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※:伊賀屋敷到着の ▲前回までに落命している忍
めどが立っていないもの X 今回の戦いで命を落とした忍
影丸のいない日・・・・5/8+あるふぁ 了