その日は未明から、3月20日過ぎだというのにひどい暴風雪。
函館線はダウンしていた。なんとか札幌まで出たものの、職場のある約60km先の美唄まで行くことは絶望的だった。
どこからともなく、駅員が現われ、
「お客さん、そーとーお困りのようだね」
帽子には金筋が入って駅助役のようだが、目つきが変に鋭くて、言葉使いもどことなくぞんざいである。
「えー、どーしても商談の関係で、今日中に書類を仕上げて、見積もりを取引様に連絡しなければならないものですから・・・」
見ず知らずの、駅係員にこんな話をする筋合いは、なんらないのだが、何かいいことがありそうな予感がして、つい余計なことまで話してしまった。
「じゃ、こっち来てくれる?これから起こること、誰にもしゃべったりしないこと。いーね!」
と、かなり強い口調で、念押しされて、階段を下っていく。
札幌駅は高架駅で、まず、改札口のある地平へ、次に地下鉄のある地下一階、続いて、3フロア分も下がっただろうか・・・
「どこまでいくんです?」
「ま、いやならやめてもいいんだよ。」
「でも、何も説明なしでは」
「おー、そりゃ失礼。もちろん、お客さんを、えーと・・・美唄までご案内してさし上げるためさ。もちろん特別料金は頂きますよ。1万円」
「だって、美唄までなら、運賃\1040+特急料金\1100ですよ。暴利だ!!」
「だから、ネ!いやなら、ひきかえしてもいいんですって。それに特急のように所要33分では着きません。
1時間少々かかります。でもいきたいんでしょ。び・ば・い」
「わかりましたよ。後はどーすればいいんです?」
「ここからは、私語は禁止。ワンマンです。料金先払い。札幌で領収書を出しますから、美唄に着いたら、それを運転士に渡してください」
電車は、地下・札幌駅?にもう入っていた。大きさは市電なみ。JR車両の半分くらいか。
ベルが鳴って、動き始めた。かなり速い。時速60kmくらいかな。
でも本当に美唄まで着くのだろうか。私は急に不安になってきた。
「さっきの客は稚内まで\10万取られていた。全線地下線か?いつこんなもの作ったんだ?
大体乗客は全員本物か?サクラってこともあるよな?そのうち、ノートパソコンよこせ、有り金全部よこせとかならんだろうな。
私は、この正体不明な列車に乗ったことをいまさらながら、後悔していた。
そして次第に、大きくなっていく不安に、叫びだしたい自分をかろうじて抑えているのだった。