第3章 トレジャーⅡ
東条院のリムジンに乗ってから2時間後、眠っていた春樹は目を覚ま
して窓の外を見た。見ると外の電柱には、八王子市と書いてある…も
うそんなところまで来ていたのかと彼は思った。そして、人あくびして
東条院に尋ねた。
「あのさぁ~、君の家ってまだ?」
「あら、やっと起きたのね。客の車で堂々と寝るなんて、驚きだわ」
東条院は、機嫌が悪そうに腕を組みながら言った。
「いや、だから客って…商売じゃないよ」
春樹は、ため息を吐いて言った。
「そう?まぁ同じ様なものじゃない」
「それより、家はまだ?」
春樹たちを乗せたリムジンは、人気がない通りを走る。道の両サイドには
一定の間隔で大きな木が植わっていて、木は緑の葉で覆われている。
「もう着くわ」
東条院がそう言うとリムジンは、緩やかな坂を登っていく。その先に洋風
の大きな門が見えてきた。
「ここよ」
門は、リムジンが前に止まると自動で開いた。その先には、道に沿って
植えられた芝生と大きな花壇、そして噴水があった。その先にこれまた
大ききな屋敷が建っている。
「うわ、でか!!」
「ホントだ、大きい屋敷ですね」
春樹と秀一は、口々に言った。しかし、東条院は、不満そうに言った。
「ふん、ベルサイユ宮殿に比べたら全然小さいわ!」
(いや、比べる物が違うだろう!!)
口に出さずとも、春樹と秀一の二人は強く思った。
リムジンが敷地内に入り、屋敷の入り口前で停車すると運転手が降りて
春樹たちの乗っている方のドアを開けた。
「皆さん、着きましたよ」
「三田川、彼らに飲み物を用意してあげて」
「かしこまりました、お嬢様」
そういって三田川と呼ばれる老人の運転手は、頭を深々と下げた。
どうやら執事でもあるらしい。この屋敷に来て相当長いのだろうと秀
一は思った。中に入ると、そこは天井が高く広い部屋だった。壁や天
井には、美しい絵が描かれていて、奥には古い置時計がある。
「わースゲー!!ここが玄関!?」
春樹は、大げさに大きな声を出した。
「藤原、静かにしなよ。でも、それにしても広いですね」
「さあ、そこに立ってないで客間に行くわよ。三田川!」
東条院は、ぞんざいにそう言うと三田川に指示した。
「こちらです」
扉を開けて奥の部屋に入ると、これまた広い客間が現れた。そこには長
テーブルが置いてある。
「お座りください」
三田川にそう言われると、春樹と秀一はおずおずと椅子に座った。
東条院も向かいに座る。すると、奥の部屋から3人の使用人が出てき
た。
「お飲み物は、何にいたしましょうか?」
三田川は、春樹と秀一の二人に聞いた。
「じゃあ、コーヒーで!」
「あ、じゃあ僕もそれで…」
「かしこまりました」
三田川は、そう言うと三人の使用人に指示を出した。そして、彼らは奥の
へと戻っていった。そして暫くすると、三人の内の一人がコーヒーを運ん
できた。
「ん~この香りは……ブルーマウンテンですか?」
秀一は、カップに顔を近づけて手で仰ぎながら言った。
「はい、良く分かりましたね。本日はより上質な豆を使用しております」
「え?秀一、良くそんなこと分かるな!?」
春樹は、驚きを隠せないといった感じで言った。
「うん、まあコーヒーについては興味があるからね。ちなみに、ブルー
マウンテンコーヒーと言うのはその名の通り、ジャマイカのブルーマウン
テンで取れる豆を使ってるんだけどね、この豆は山脈の800~1,200mの
エリアにあるもの以外のものはブルーマウンテンの名を使って販売して
はいけないと法律で定められているんだ。あ、ちなみにそのエリアは
ブルーマウンテンエリアと呼ばれていて……」
「秀一、ウンチクはもういいよ…」
だるそうな春樹の言葉に秀一はあわてて口を止めた。どうやら興奮して
語りすぎていたようだ。
「しかし、よくご存知ですね。その通りですよ」
「あ、ありがとうございます」
秀一は、褒められて少し遠慮がちに言った。
「でも、これ本当においしいですね」
「うん、凄いおいしい」
「ありがとうございます」
春樹と秀一の言葉に使用人は、頭を下げた。
「さて、話は終わったかしら」
今まで口を開かなかった東条院が、カップを置いて言った。
「あ、はい…」
「さっきも言ったように、今日はあなたたちにおじい様が私に残した
物を探してほしいんだけどその前にもう一度手紙の内容を確認したほ
うがいいわね」
東条院がそう言うと、三田川が手紙を春樹たちに渡した。
「おじいさんのノッポの古時計か…この手紙のヒントを読む限りじゃ
時計が関係してるよね」
秀一が眼鏡をクイッと上げながらそう言うと、春樹が三田川に尋ねた。
「おじいさんのノッポの古時計と言えば、大きな置時計のことだけど
三田川さん、この屋敷に置時計はどのくらいあるの?」
「はい、玄関に1つであと食堂・大広間にも1つずつ、あと長廊下に
2つの全部で5つです」
「5つか……」
三田川の言葉に秀一は、顎に手を添えて言った。
「とりあえず一回この屋敷の中を見て、置時計を確認しといたほうが
いいよな。案内してくれる?」
「かしこまりました」
春樹の言葉に三田川は、頭を下げて言った。
「三田川さん」
「はい?」
春樹の唐突な呼びかけに、三田川は思わず声が上ずった。
「俺たち、子供なんだし敬語は使わなくていいよ。あとお辞儀も」
「はあ…」
三田川は少し戸惑っているようだ。
「とりあえず、それでよろしく」
「かしこまりました」
春樹は、三田川の言葉遣いに思わず笑みがこぼれた。