近年まれに見る円安だそうな。

 

 輸入肉を食べ放題に回していた焼き肉店の倒産が過去最高……焼き肉はめったに食べに行かないし、牛もほとんど食べないので、あまりピンとこない。

 

 給油サーチャージを入れたヨーロッパ旅行が60万円に……しばらく海外旅行に行ってないので(何より予定がないので)、「アラ〜大変ねえ」的反応で終了。

 

 つまり円安は他人事であった。

 

 それが!

 

 

 もう二十年ほど、ドイツ製の風景カレンダーを愛用している。写真のクオリティ、カレンダーとしてのレイアウトが見事で、月が変わってめくるたびに驚きと喜びを感じられるのだ。

 

 最初の数年は洋書を扱う書店で買っていたのだが、Amazonをのぞいてみたら少し安めに手に入ることがわかった。だいたい3000円から、高くても4000円台の価格だった。日本製より高いが、お気に入りなのでおのれにぜいたくを赦していた。

 

 

 毎年5月ごろにチェックして、発売前なら予約を入れるなどしていたのだが、今年はちょっとうっかりして出遅れてしまった。

 

 一抹の不安を胸に検索してみると、いいなと思うものはすべて「ただいま一時的に品切れ」となっている。ただ「入荷未定」ではなく「できるだけ早く入荷するように努力します」(意訳)ランクだったので、リストに入れておき、折に触れてチェックするようにしていた。

 

 すると!

 今月頭に見てみたら、「入荷未定」になってしまっているではないか。今年はもうあのシリーズを飾ることはできないのか……。

 

 実はそのカレンダーは出版元のHPからでも買える。だが、英語(ドイツの会社だが表示を英語にできる)の壁を乗り越え、さらに外国サイトにクレジットカード番号を入力するというのは敷居が高い。

 

 

 7月のある日、あのドイツ製カレンダーでなくてもいいから、とにかく何か買ってしまおうとAmazonサイトをのぞいた。ついでに未練たらたらでリストを見てみたら、価格が表示されていた。

 つまり入荷したのだ!

 

 で、いくらだったと思います?

 

 約10000円。

 価格高騰の原因としては‒‒円安でしょうな。それにしても突然2.5倍とは恐ろしいのひと言である。

 

 あなたなら〜どうする〜♪(どこかで以前に使いましたね、遠い昔のCMソングです)

 発売元のHPから買う? いやいや、考えるだけでゲッソリ疲れる。

 

 ……

 

 Amazonで買いました。1万のカレンダー。

 毎日1万円札を思い浮かべ、手を合わせながら眺めることにします。

 純粋に医学的必要から、ある点眼液を使っている。

 

 この点眼液には、ある副作用がある。‒‒何と発毛するのである。正確には「発毛」ではなく、「いまある毛が伸びる」なのだが。

 

 点眼薬を使い始めてしばらくして、おのれの睫毛が通常の1.5倍になっていることに気付いた。いつの間にか世の女性が付け睫毛だら睫毛エクステだらで欲する長さレベルに達していたのだ。まさに人生初の長さである。やっぱりアレの(副作用の)せいであろう。それからハッと気づいた。

 

 これなら発毛剤として使えるのではないか!?

 

 例の問題に悩む世の男性(女性もいるか)も、まずそう思うであろう。調べてみると、やはりそう考えた人は多いようだった。しかし残念ながら頭髪には活用できないようであった(効果があるなら、画期的発毛剤として発売されていないはずがない)。

 

 

 私の睫毛は長い‒‒薬剤の副作用によるものだけど‒‒そう信じて胸を張って生きて幾年月。ある日、会社で三十代の男性と打ち合わせをしていて気づいた。

 

 この人の睫毛、すごくないか?

 

 長さ、濃さ、全てにおいてパーフェクト。付け睫毛には小さな三角になった「毛」が多数ついているが、なるほどこういう睫毛を模しているのかと、まさに目から鱗が落ちた。 

 さらに下睫毛も並みではない。長さ、濃さ、全てにおいて私の人生で三本の指に入る見事さである(いや、たぶんナンバーワン)。

 

 打ち合わせが終わり、手洗いに立ったとき、洗面台の鏡に映る自分の睫毛を見て私は思った。

 

 こんなの睫毛じゃない!!

 

 私は毎朝使っていたビューラーを心の中で投げ捨てた。

 

 それ以来、その男性と打ち合わせをするたび、私は落ち着かなくなる。

 この素晴らしい睫毛をくりんと巻き上げてみたい……私の手は幻のビューラーを探すのである。

 初夏の朝のオフィス街。前を行く人々の背中を見るともなく歩いていた。道行く人々は上着を脱ぎ、シャツ一枚という人がほとんどだ。

 

 ん?

 

 何かが私の目を捕らえた。いや、私の目は何かを捕らえた、か。ともかく私の視線はある後ろ姿に吸い寄せられた。 

 

 30歳半ば、まだまだオレは若いぜ! 最近飲み過ぎると次の日の午前中はちょっとつらいけどな……(想像です)という、ちょっと体育会系の残り香のする、推定身長178センチの男性だ。

 

 そのたくましい首を包むシャツの首の後ろ襟に、遠目からもはっきり分かる「M」の文字が。

 ……ワンポイント?

 だが、シャツ自体は白で、模様などはない。デザインであろうか?

 

 アッ! わかった!

 

 サイズシールを貼ったままなのだ! どうやらシャツはおろしたてらしい。

 声をかけてあげるべきだろうか……と2秒ほど悩んだが、やめた。

 

 おもしろい方に3000点!

 

 あの男性はしばらく会社の話題を独占し、これからも事あるごとに周囲の人々を温かい気持ちにする……かもしれない。そういう雰囲気の会社であれば。

 私は襟に「M」をくっつけたままと遠ざかっていく(足が速かった)後ろ姿にエールを送ったのであった。

 

 ふと思いついて、切れかけていた化粧品をネットで検索してみた。いつもはお店で買っているが、いくらか安くならないかとあれこれページを移動してみると、255円引き(笑ってはいけない)クーポンを発見。さらにポイントでかなり安く買うことができた。

 

 ポイントは前回の買い物で取得したものだが、なんと「期間限定」だったらしいのがわかった。ぼんやり生きていたら、いつのまにかポイントが消滅していたということにもなりかねなかったのだ。さっさと使うがよろしい。

 

 黄色の傘さん、ありがとう♡

 

 以前、たまたま通りがかったお寺の掲示版に書かれていた言葉を思いだす。

 

 「幸せは、ささやかなるが最上なり」