医師から、最終段階が近づいている、余命数カ月といった話があると、本人もご家族も「体に障るようなことは、何もしてはいけない」という心理になりがちです。

 

終末期の患者さんが食べたいものがあっても、やりたいことがあっても、「それは控えておおいた方がいい」と指示される。

 

本人はただひたすらじっと横になるだけ

家族も息をひそめるようにして命が終わる時を待つ…

 

僕は、こうした発想は「病院的」な考え方だと思っています。

 

病院の医師たちは、患者さんの命を 1 分でも長らえることが仕事ですから、

「おかしなことをして何かあったらどうする」という発想になります。

 

 

しかし、在宅医療はそうではありません。

 

 

60 代女性の O さんは、数年前から卵巣がんの治療を続けてきましたが、残念ながら再発してしまったことから、病院での治療を終え、当クリニックの在宅医療に移行しました。

 

一緒に住む 70 代の夫が主として介護をしています。

 

O さん夫婦には二男一女がいて、子どもが 3 人とも比較的近い地域に住んでいます。

次男は結婚しており、孫も 2 人いて、幼い頃からOさんの家でよく遊んでいたそうです。

 

O さんが在宅医療を始めた当初は、買い物に出るなど、いつも通りに近い日常生活を送れていましたが、

ここ数カ月で体調が悪化し、弱ってきています。 

食事もあまり口にせず、横になっている時間が長くなっています。

 

死が近づいていることを意識され、不安が高まっているようで、

家でうつうつとし て過ごす日が続いていました。

そんなOさんをみて、夫も子どもたちもどう対応していいかわからず、困惑しています。

 

訪問看護師からも、Oさん一家が悲しみに沈んでいる様子だという報告を受け、僕は次回の訪問診療時に O さんの夫と 長女、次男と話をすることにしました。

 

確かにOさんは医学的には最終段階が近いと予期される。

いつどうなるかは誰にもわからない。

しかし、今のうちにしたいことがあれば楽しんでほしい。

Oさんと外出したい希望があれば支援する。

 

といったことをお伝えしました。

 

それから 1 週間が経過した 3 月の初旬、次男さんからクリニックに連絡がありました。

 

月末にOさんと一緒に以前に家族でよく訪れていた公園に花見に行きたい、というお話でした。

 

私たちチームは、車椅子のまま O さんが乗ることのできる福祉車両を手配し、支援をすることにしました。

 

外出の当日は、朝一番で訪問して O さんの健康状態をチェックし、大きな問題がないことを確認。

外出先で何かあったときの対処法についてもご家族に説明し、O さん一家を送り出しました。 

 

一家は毎年のように訪れていた公園で、無事に花見を堪能することができたそうです。

 


外出から 1 カ月ほどしたある日、O さんは自宅で息を引き取りました。

 

ご家族皆さんが

「最後にみんなで花見に行けたのが、自分たち家族にとって本当に良い思い出になりました」

と、話してくださいました。

 

 

 

どのような段階になっても「その人らしい暮らし」を

外出時にどうしても必要なときは医師や 看護師が同行するケースもありますが、

O さん一家のように、家族だけで外出をされることも決して少なくはありません。

 

たとえ最終段階でも、

いえむしろ最終段階であるからこそ、

本人は本当に自分のしたいこと、家族は先に逝く人にしてあげたいことを、一緒に考えていきましょう。

 

 

 

 

「在宅医療」他人事ではございません。

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