10年。旦那と結婚して10年経った。子供がほしくて仕事は8年前にやめた。
32歳だったから、もう産んだほうが良いと思った。はじめて「作ろう」とSEXした時のことが忘れられない。子供できたかな。中で出しちゃったね。付き合ってる間ずっと避妊してたから、はじめての経験にワクワクした。夜中遅くまで、どんな子だろう、名前はどうする?どんな漢字が好き?ここらってどこに幼稚園あったっけ。たくさん話した夜。あれからもう10年経った。もうそんな話はしない。期待するだけ今が悲しい。
旦那の精子を紙コップに入れて胸元に挟んで電車に乗る。これが命。私の中に入って卵と結ばれて。何より私のお腹に住んで。そんなことをいつも考えてる。
注射打って薬のんで病院いって。
2時間待って先生と10秒話してお股ひろげて台乗って太い注射打って卵抜いて体外受精させて何百万払って生理がきて。
また注射打って薬のんで病院いって。
それを毎月やって、気がついたら10年経った。
なんで10年に気がついたかというと、10年日記が今年で終わるから。
驚いた。大きな日記帳。きっと子供のことを沢山書くからと可愛い柄にした10年日記は、私の涙と治療の記録だ。10年日記は同じ日付をみることが出来る。去年の私も生理がきて、ヤケ酒してる。今日の私も同じ。日記読みながら震えが止まらない。私10年間治療しかしてない。
せめて働き続ければよかった?
だって病院にいく日は決まってる。その日を逃したら来月まで何もできない。何の期待もない一ヶ月なんて無駄すぎる。一日だって子供に関係なく過ごしたくない。産める年齢は決まってるのに、ぼんやりしてる時間はない。早く産まないと「病院に通ってた私」が無になってしまう。結果を出さないと10年かけたのに何も無い。30歳から40歳、一番自分を見つけられる時間に「無」。カラッポだったとこの日記が私に伝えてしまう。
怖くて怖くて、雪が降り積もる中、ふらふら外出した。今年産まなかったらもうダメかも知れない。新しい日記に何を書けばよいか分からない。
歩いて5分。いつもいくコンビニに入った。中は暖かくてメガネが曇った。10年前はメガネもしてなかった。今は軽く老眼も入ってる。メガネをふこうと立ち止まった私に何かがぶつかった。小さな男の子。
「待ちなさい!ぶつかったよ、謝って。ほらごめんなさい」
赤ちゃんをおんぶした女の人が小さな男の子を捕まえて私に頭を下げさせた。いえ、大丈夫です、今だけは赤ちゃんを見たくなかった。
「ごめんちゃーい」
男の子はふざけて謝り立ち去った。
「こら!」
お母さんが声を張り上げた時、男の子は棚にぶつかり柵が取れ、商品が一列一気にバーン!と落ちた。一斉に10メートルくらい。
「えーっ?!」
大阪のギャグみたいリアクションをお母さんと男の子が一緒にした。ええーー、ほんまかいな!その直後にお母さんが言う。あんたが言うな!
私は思わず笑ってしまった。すいませんすいませんとお母さんが拾い、私もそれを手伝った。さすがに子供も反省したのか、一緒に拾った。お店の人と三人、棚をきれいに戻した。
「シンケンジャー!!おばさん、緑のドラえもんって知ってる? 黄色は? ねえねえ」
お母さんに首根っこ掴まれながら、男の子は帰っていった。レジでお店の人に言われた。
「ありがとうござました。前より棚がきれいになっちゃった。あはは」
その瞬間溢れてくる涙をこらえるのに必死だった。何かをしてありがとうございましたと言われたのは久しぶりだった。
家に帰って日記を開いた。
今日はありがとうございましたと言われた日。
次の日記を買おう。そしてそれから、色々考えよう。