「生まれてきちゃいけなかったんだ!」
安いドラマはよくあるけど、俺はそんな事ぜったい言えない。マジで生まれてきちゃいけない子だったから。
一番最初の記憶は、母さんと父さんがケンカしてる絵。母さんが怒鳴りちらして泣いていた。父さんがぼんやりと立ってる。そんな絵。あなたの父さんは私ばかりいじめる。父さんがかわいいのはお姉ちゃんだけなんだよ、あんたも私も、やっかいもの。母さんはいつもそう俺に言っていたから、本当にぼんやりと父さんは苦手だった。だから家を出て、母さんと二人で暮らし始めたときは、少し嬉しかったくらい。でもそれが間違いだとすぐに気がついたけど。
うちは6畳と部屋と4畳の台所しかないアパートの一階で、玄関から部屋の奥まで丸見えなんだ。よく家にくる男の人が居た。何を話してるのか知らないけど、玄関脇においてある洗濯機をトントントントン叩く音だけは聞こえた。話してる間ずっと続くんだ、その音は。トントントントン。その男が部屋の中に入ってきたことは一度もない。玄関から母さん越しに俺をみて、俺が目を合わせる前に出て行く。そんな感じ。その後は母さんがずっと泣いてた。泣いてばっかだ。思い出すと泣いてる背中と、やせた首ばかり思い出す。やせた首って後ろに筋が見える。俺はあればっかみてた。何も知らず。
母さんは朝から晩まで働いてたから、俺は家に帰ってずっと一人だった。いつだったかな。おばあさんが家に来たことがある。しらない人だったけど、突然お前は一家の恥だから消えろ、今すぐ母さんとこの町を出て行け、椿の苗字を名乗るなと永遠と言ってた。俺のラッキーなところは、父さんと母さんが毎日ケンカしてるのを聞いてたからかな。人の話を聞いてる顔して無視できる。頭をさげて泣いてるばあさんの首はまた細くて、それは母さんと一緒で、それを見ながら「この人何時帰るのかな。夕方のシティーハンター見れるかな」て考えてた。そのうち母さんが帰ってきて、おばあさんを引きずり出して外でケンカしてた。俺はシティーハンター見れて良かったけど。ファルコンがバーンって銃撃つタイミングで母さんがおばあちゃんバーンって叩いてて笑ったくらい。よく考えれば、この辺から「いい意味で開き直った」。もうこれ以上俺の人生落ちなくね?って。
何度か前の父さんが住んでた家に行ったけど、姉さんの俺を蔑む目が忘れられない。
なんだろうね、同じ母親の腹から生まれた姉弟なのに、幸せに大きな家に住んでる姉があんな顔する必要あるのかな。悪いのは母さんだ。浮気して俺を産んだ母さんで、そのことで人生が狂ったのは俺で、姉さんは「イヤな思い」をした程度。だから俺はあの家にいくのがイヤだった。俺より被害者顔して良い人なんて誰もいない。父さんだって、姉さんだって母さんだって。
一生恨む、そう誓いもしたけど、一生恨んで何か生むのか。
母さんも俺を生むなよ、と言いたいけど俺は今日コンビニで買ったカルビ弁当が美味しかったから、それはそれで幸せで、生まれてこなかったらカルビ弁当は食べれなかったと思う。
俺は一生一人だと思う。
愛も恋も家族もよく分からない。愛があったら俺はイジメにあわなかったのか。愛があったら俺は生まれたのか。愛が無かったから俺は生まれたのか。恋があれば母ちゃんと父さんは今も幸せなのか。家族って縛りがあれば、姉さんは俺を嫌わなかったのか。
何も分からない。
俺にわかるのは、旨い、まずい、明日も仕事がんばろう、だ。
でもきっとそれでいい。