両親の話、祖父の話、若い頃の話など、彼の話はどんどん広がっていく。
なにか最後の局面に直面した時に、人は今までのことを全部話したくなる。そんな場面に私はたくさん立ち会ってきた。
だから私は、彼のやや取り止めのない話に、飽きたそぶりも見せずにつきあっていた。
彼の業界の話、ジェンダーの話、最近の技術開発の話などなど、いろんな話題が出た。
「あぁやっぱり今日はいいですね、気持ち的にゆとりがあると。やっぱり落ち着いて楽しまないとね。」
「そうですね」
デザートが運ばれてくると、そのとても綺麗なガラスの器のデザインについて盛り上がった。
デザートが終わった時点でけっこう時間が経っていた。
「あっ、いつのまにかこんなに時間が経ってたんですね」
彼の話が少し長くてさすがにそろそろ部屋に戻りたくなっていた。それでも、京都人でもない彼はお茶を飲みながら話を続けた。
「〜〜僕はきっかけがないから離婚しないだけ。何かあったら離婚しますよ。忙しいから敢えてその問題には手をつけないでいる感じかなぁ。」
私が質問したわけではないし、別に聞きたいと思っているわけでもない話を、
まるで私に質問されたことに答えているかのような口調で話し始めた。
「〜〜」「〜〜」
私は、彼とフォーマルな形でどうにかなりたいとか、彼の結婚•離婚に関して何か左右したいとか、そういうことは一切考えたことはない。
そこは揺らがない部分なので、彼がそういう話を私にしてくると完全に聞き流している。
「そろそろ行きます?」
「そうですね、行こうか」
ランチに90分くらいかけていた。
「あぁ美味しかった」
店員さんたちに、ありがとうございましたと爽やかに挨拶されながらレストランを出た。
エレベーターに乗る。
「休日みたいですね」
「休日だよ」
「ローマの休日ってこと」
「ふふっ」
また、部屋がある50階に着いた。
部屋に入る。
「ああ、綺麗だなぁ」
「ね〜 ほんと綺麗」
「休日っぽくしよう?脱いだ方がいいんじゃない」
「うん、、でも、、」
「どうせ脱ぐんだからさ」
「そうですね、、」
「部屋の温度どう?寒くない?僕お風呂入れてくるね」
「はい」
遠くで救急車のサイレンが聞こえる。
「すごくない?このカップル感。50階だと都会のど真ん中なのに、現実から切り離されてる感じがして」
「うん、すごくいいですね、、」
街を見下ろすことができる50階の部屋の大きな窓は、床から天井までほぼ全面が窓だった。
窓際に置かれたソファは背もたれが低くて、
そこに座るとまるで空に浮いているようだった。
そのソファに2人で座った。
「今日は恋人同士みたいな感じでしよう?」
チュッ、チュッ、と、軽くいちゃいちゃする感じのキスを交わす。
いつものラブホテルみたいに、最初からスイッチが入ってガツガツしていないのが新鮮だった。
(これまでの10年間、2人きりになるとキスだけで濡れて、彼は鼻息が荒くなって、すぐに互い全裸になってあっという間にいれられるセックスばかりだった)
「付き合ってるみたい。まぁ付き合ってるんだけどね」
「…」
(私は、彼と“付き合っている”つもりはなかった。本当に、毎回、その時その時で魔がさして会っていたのだ。そう思いこもうと頑張った時期を経て、私は本心から“魔がさして会っていた”だけだった。
だから、“付き合ってる”という言葉には違和感を感じたし、そう言われても嬉しくはなかった。そもそも、彼はもうすぐ日本からいなくなる)
「触っていい?」
「はい…」
いつもと手順と勝手が違うから、彼がマイルドで紳士的だと、逆に戸惑う。
(彼にとって、身体だけの関係の相手とのセックスと、付き合ってる相手とのセックスってこんなに違うんだ…)
(正式な“彼女”とか“奥さん”だったら、こんな風に彼に丁寧に扱われる立場なんだろうか。でも私は彼の普段の本性を知っちゃってるから、急にこんな風にされると嘘くさく思っちゃう。普段の乱暴な感じとか、身体だけの相手っぽく扱われた方が嘘くさくなくていいのに…)
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