基本設定が終わり、空間コンピューターならではのバーチャルな映像体験が始まった。ゴーグル型のものをかけているのだけれど、映像はゴーグルの向こうの部屋の空間いっぱいに広がって見える。
最初に見せてもらったデモ用の静止画や動画は、彼が赴任先で撮影したものだという。
3Dの効果がとても自然で、まるで自分がその風景の中にいるように感じられた。何人もの人がいる映像を出すと、自分もその人たちのすぐ近くに立っているような感覚になり、手を伸ばすと目の前の人に触ることができそうだった。実際に手を伸ばしてみると、触った感触がないのが意外に思えるくらいのリアルさだ。
「うわぁ‼︎ これすごいですね!」
日常の風景やトレッキングサイトでの様子に混ざって、海の写真もあった。
それは、彼の赴任先に押しかけた時に一緒に訪れた
海だった。
ーーー
その海は、光の加減で不思議な色に見え、
海辺は砂漠のように荒涼とした独特の雰囲気が漂っていて、アンドリュー・ワイエスの絵のようだった。
この海辺を歩いた時に、歩いて行ける突堤ギリギリの所まで行き、彼とキスをした。
“無人島とか火星に2人きりみたいですね”
“僕たちそんなとこで2人きりで暮らしたら、
1日じゅうずっとセックスしてるんじゃない?”
そんなことを話していた記憶がある。
海辺からしばらく歩くと
今度は乾燥した稲穂のような背の植物や巨大なアザミのような植物が一面に生い茂り、
柚子くらいの大きさのカタツムリの殻が何百個も鈴なりにくっついていて、まるで別世界にきたようだった。
そしてその後ホテルに戻って激しく抱き合った。
“あの海辺を歩いている時、外でtefeさんをめちゃくちゃに抱きたいと思った” などと言われながら。
ーーー
でも彼はそんなことを忘れているかもしれないし、
覚えていたとしても既に別れた後なのだから、
私からは言わない。
すると、彼が言った。
「tefeさん、この海覚えてる?」
「…懐かしいですね。あ、海の上にたくさんヘリが飛んでますね!」
私は、空間コンピューターのデモ映像に
夢中でい続けることにした。
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