「わざわざコストをかけて移動して、

生身の人間同士で会って

本当のセックスをするってことが、

とても特殊なことになる時代がくると思うな。

きっと、

バーチャル空間でのセックスが主流になるよ。」


「面白いですね」


彼は持論を語りながら

悦に入っているようだった。


私は、面白いとは思うものの、

内心、そんな話、今のわたしたちには関係ない

思って、半分聞き流しながら

一緒に駅に入った。


(その数年後に、彼とバーチャルセックスに

はまるとは思いもしませんでした。)

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帰り道は途中までは同じ方向だったので、

同じ急行列車に乗った。

なんとなく、いつものラブホテルの後のように、

さらっとお別れする形の方が良かったのだが。


観光地発の列車は混んでいて、

席が満員で座ることができなかった。

車内に並んで立って吊り革に捕まる。


(さっきのお別れのキスの後に、列車で並んで座ると、

話すのも、無言でいるのも気まずくなったかもしれないから、むしろ立ってることになってよかった。

話さずに済む。)


そのうち、私が降りる駅に着いた。

私は、電車に残る彼に身体をまっすぐ向けて

「じゃあ、ここで失礼します」と

頭を下げて、仕事相手にするような

丁寧で少し他人行儀な感じで挨拶をして、

彼の反応もみずにサッと列車を降りた。



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