TEF道のくどうです。
TEF道で行われた、カスタマージャーニーマップ勉強会のレポートです。
2015/12、2016/1の2回に渡り実施されていました。。。
小楠(さ)さんに、ワークショップ形式でカスタマージャーニーマップを紹介して頂きました。
小楠(さ)さんのカスタマージャーニーマップの師匠である内城さんに、アドバイザーとして付いて頂きました。
●カスタマージャーニーマップとは何なのか
見込み客が商品に対して取る一連の行動や感情・意思の移り変わりを図にしたものを、カスタマージャーニーマップ(CJM)といいます。
CJMはそれを表現するのに、ユーザーの行動・体験を時系列で整理するという特徴があります。
製品やサービスにまつわる、顧客行動の背景を旅になぞらえて可視化することで、顧客の行動・心理を理解するために利用します。
顧客の行動・心理の理解によって、商品の分析や、意識の共有、発見に役立てたりします。
CJMには決まったやり方は無く、その時々でカスタマイズして使うことが推奨されるのですが、よく含まれる要素として以下のようなものがあります。
・ペルソナ
・タイムライン
・モチベーション
・タッチポイント
・チャネル
●ワークの内容
「新しい機種を開発して、携帯電話の売上を上げる」
ためのアイデアをCJMを使って出してみようという内容でした。
●ワークの手順
1.目的と最終ゴールを設定する
あとで検証する時に困るため、なるべく具体的な方がよい。
2.施策を思いつきであげてみる
あとでCJMによって出てきた施策と比較するために思いつきで出してみる。
3.ターゲットを決める
より具体的なCJMを描くためにペルソナを設定する。
ペルソナは奥が深いため、いくらでも時間をかけられるが、
今回は簡易に性別、年齢、性格、望み、悩みなどに抑えた。
特にペルソナ作りが初めてである場合は、この後の行程が本番であるため、
ここであまり凝りすぎない方がよい。
4.時系列の区切りを決める
時系列の段階を決める。どのような区切りにするかは自由。
ワーク後に話された事だが、購入後の段階や思いたちを入れることがおすすめされた。
購入後があるとよい理由は、購入した事によってターゲットがどうなるのかこそが、製品・サービスの価値であるし、
そこが魅力的であるかまで考えることで、その価値について話し合う事ができるため。
また、そこでターゲットが喜んでくれるところまでを考えるほうが楽しいから。
思いたち(課題を解決したいと思うきっかけ)があるとよい理由は、
どんな時にそれを思い立つのかを考える事はあまりない事が多く、
それを考えるのは新鮮で楽しく、かつ重要である事が多いため。
5.各段階でのターゲットの行動を洗い出す
各段階で、そのペルソナのターゲットが、どんな行動をしそうか洗い出してみる。
あとで絞り込むため、どんどん洗い出していく。
6.行動に伴う気持ちを考える
その行動はどんな思いで起こるのか、その行動でどんな気持ちになるのか考える。
感情の情報は重要であるため、頑張って考える。
ただし、あれもこれも対象にしてしまうと、疲弊して失敗し、良い成果が得られないので、
対象は絞り込んだほうがよい。
何をピックアップするかは、何が面白そうかで決める。(「光るポストイットを探す」)
7.感情曲線を書いてみる
感情の浮き沈みを曲線で表してみる。また、イメージしやすいように各ポイントで絵を書いてみる。
絵が人間の思考に与える影響は大きいため、必ず入れることを推奨する。絵が苦手な場合は絵文字などでも良い。
8.できたCJMを見ながら、問題・課題を話し合う
改めてCJMを見て得られた発見や考えを交換する。
おすすめされていたのは、よりキーとなる課題を絞り込み、鋭くしていくこと。
感情情報を参考にすると、いわゆる「相手の立場に立って考える」が出来る。
9.アイデアを出す
研ぎ澄まされた課題を元に、それを解決するアイデアを考える。
ターゲットのバックグラウンドと思考、課題のポイントを共有した上で、
アイデア出しをすることが出来る。
10.アイデアを5コママンガにしてみる
出たアイデアは感情曲線を元に5コママンガにする。
内城さん発案の方法で、CJMを作って終わりにせず活用するために、より印象深くするための方法。
絵を描くのは大変かもしれないが、このシンプルなストーリーは、最終的なアウトプットを印象に残りやすくし、最後に共通の認識を合わせてくれる。
5コママンガは
1製品の説明
2どんな顧客像なのか
3どんな悩みか(ビフォー
4利用するシーン
5どうなるのか(アフター
の内容で作成する。
●ワークの結果
●CJMのよいところ
・模造紙などに描いていくことで、指を指しながら話し合ったりなど、コミュニケーションが取りやすく、気づきも得やすい
・タイムラインがあるため、時間の移り変わりによって変わる要求について考えられる
・ペルソナが設定されているので、ある程度条件が限定的になり、アイデアを出しやすい(議論を進めやすい)
・アイデアが感情と紐付くため、説明した時の腹落ち(納得)感が増す(と思う)
●CJMで注意するところ
途中で疲れてしまわないように注意する
・ポストイットをたくさん作ることに熱中してしまわないようにする
・行動に対して1:1の感情を考える作業に没頭してしまわないようにする
作って終わりにならないようにする
・乱雑なアウトプットになってしまいがちなので、作って満足して、捨てられてしまうことがある。最終的な結論までだして完成とすること(5コママンガがおすすめ)
細かい所にいき過ぎていつまでもおわらない
・次に進むための情報を得る事が目的であり、それが得られればCJMは不完全でもよい
・完全なCJMを描けば、必ず有用な情報が得られるというわけでもない
戻ってもよい
・進めていく上で、やはりこの時系列区切りの方がよい、ペルソナはこの方がよいなどあれば立ち戻って変えていってもよい
・先の工程に行くことで分かってくることもあるので、最適なものを時間をかけて考えるよりも、先の工程へ進んで立ち戻る方が良いこともある
●より良いCJMを書くためには
どんどんストーリーを絞り込んでいく事を意識する。
CJMは「ハイクオリティな妄想である」といえる(内城さん)。
机上で展開を想像することになるので、妄想の域を出ないが、
それを図上で共有し、複数人の意見や知識を取り入れながら、
クオリティを高める事で、より多くの良い発見があるCJMが作れる。
おそらくだが、クオリティが高いというのは、
どれだけの情報源に基いているか
どれだけの参加者が面白そうと思ったか
どれだけの参加者がその妄想に納得感があるか
辺りがヒントになるのではないかと思う。
●Q&A
ワークを進めていく上で出てきた疑問について、小楠(さ)さんや内城さんにお答え頂きました。
Q: 購入してもらう事が目的ならば、時系列は購入まででよいのだろうか
A: カスタマーが製品やサービスと共に歩む旅路を妄想するにあたって、購入でそれを終えてしまうのは、物足りない。製品と出会い、悩み、発見し、気付き、手に入れることによって、何を得たのかまでを考えた方が、良い体験を与える製品とは何か、本当に欲しかった、体験したかったことは何だったのかを認識するのに効果的である
Q: 時系列の区切りを、タッチポイントで区切るのはアリだろうか
A: アリ。自分の心地いい感じのフェーズで区切るのが一番で、正解はない。
どんなペルソナを設定したか、製品の特徴は何かによって、フェーズも何も変わっていくので、
変だと思ったり、こうした方が良いと思ったときは、どんどん変えていくのがおすすめ。
Q: CJMは仮説に仮説を重ねているようにみえる。その検証はいつ行うのか、前提がコケたらどうするのか。
A: そのとおりである。
まず検証については、2つ考え方があり、
1つは、検証そのものを大事にすること。
2つ目は、検証しないこと。
よく行われるのは、前提会議をすること。
荒い初期仮説をたてて、共通言語を揃えたりする。日本が好きな手法。
アメリカでは、強い妄想力で、マーケットがあると信じる。そして、データを覆すような成果を出したりする。
前提データが間違っていると、実は小さなマーケットだったりなどが起こり得るが、
より確度の高い前提データの集め方や、検証をどの程度行うかのバランスは答えがないため、考えるしかない。
Q: ストーリーを絞り込みすぎるとマーケットチャンスを失ってしまわないか
A: 広い仮説を見渡して、絞り込むことで、鋭いコンセプトを作ることができる。(スタバのサードプレイスなど)
現代は多重人格社会と言われており、その人のどこかの面にささる、ということもある。
ふわっとしていると刺さらないが、尖っていると刺さりやすい。
また、誰かに刺さるものは、他の(ターゲット外の)人にも刺さりやすかったりするため、
一概にマーケットチャンスを失うとはいえない。
●まとめ(小楠(さ)さんの資料の転載)
・CJM作成は不完全でもよい。CJMはあくまでモデリングの手法。その先に進めることの方が重要。
・Outside-inの視点で、思い切って自分たちの事業から切り離してユーザーを見てみることが大事。
・感情の情報を活かすのが、CJM特有のやり方。
・CJMをつくる過程で、メンバーとのコミュニケーションが取れるのも良い効果。
・これまで(テストエンジニアが)よくやってきた、上流→下流の工程で情報を徐々に膨らませる事と、まったく逆の考えが前提となっている。(情報をどんどん絞り込んでいる)
・ソフトウェアテストにおいて、例えば、探索的テストの観点やリスクベースドテストのリスクの洗い出しなど、広がりそう。
●感想
CJM作成での、話し合いながらアイデア出しする作業は楽しいものでした。
最後に一つのストーリーに絞り込んで、5コママンガを作成するのも、成果を明確にするために効果的と思いました。
もしこれがないとすると、分析結果のみが残って、結局どうするのかが残らず、CJMの効果が薄れるように思いました。
(情報の共有やいくつかの発見が出来たという成果は残ると思いますが)
まとめにもありましたが、テストの(いわゆる)非機能要求の検討にも使えそうというのは、その通りかと思いました。
利用者の感情に即した要求は、見落としていると、顧客の手に渡った瞬間に見つかるなどがありそうで怖いです。
タイムラインによって、多くのフェーズについての検討が促されますし、適切なペルソナの設定は新たな観点を提供してくれるかもしれません。
検討で出てきた仮説の検証は、現場のインタビューになるのでしょうか。だとすると、非機能要求の洗い出しとしても、今ある手法と地続き感があります。
もしかしたら、CJMを先に作ることによって、効果的なインタビュー内容を考えることも出来るかもしれません。
CJMは柔軟に工夫することが推奨されているようですが、
最初は、何かを真似て最後までやってみてからでなければ、
どうしたら良いかはピンと来ないのではないかと思ったので、
最適な時系列の区切りは何か、ペルソナは何が最適かで止まるよりは、
どんどん先に進んでどんどん戻ってみるやり方も、慣れてくるまでは良いのではないかと思いました。
●参考書
ワークショップ開催時点ではCJMそのものの参考書などはなく、考え方の参考になる者として「ペルソナ作ってそれからどうするの」が紹介されました。
自分が知っているものだと、「THIS IS SERVICE DESIGN THINKING.」の中でツールの一つとして紹介されるがちょっとしか紹介されてません。
その後、「The Customer Journey」という本が4月に発売されています。(多くの会社のマップが掲載されていました)