「歯が揺れていて、痛くて噛めない。薬で治して下さい。」
「根の治療なら一回で終わらせて下さい。」
「ブラッシング指導は要りません。」
まずはレントゲンで中の状態をチェックしてみましょう。
一番奥の歯が、浮いた状態になっているのがわかる。
周囲一層の骨が溶かされてしまっている。典型的な歯槽膿漏の一つである。
一番奥の歯は、充分なブラッシングが難しく、噛み合わせの負担も一番かかりやすい。更に歯医者さんも一番治療しにくい部位である。
トラブルが起きた場合、一番大切なのは、なぜそうなったのかを考える事である。
歯磨きが悪くて虫歯になったのであれば、必ず歯医者さんで毎回磨き残しのチェックを受け、ブラッシングのコツを覚えなければ、何回治療を受けようが同じことの繰り返しである。ポケットを磨くという大原則は不変であるが、百人居れば百通りのクセがあり、コツがある。
歯医者さんは無駄に治療を長引かせる、とはよく聞く話であり、僕らも当然それを知っており、なるべく早く治療を終わらせてあげたいと思う。
なにより、誰もが限られた時間の中で日常生活を戦っており、その中で歯医者さんに時間を割く事、一日のスケジュールを考える上で時間を拘束される要素が一つでも増える事は非常に大きなストレスである。
が、しかし、何年もかけて悪くなった歯が、一回や二回で元どうりになるはずがない。
最近、歯科に限らずあらゆるジャンルで、労せずに結果が手に入る、という人間心理の弱みに付け込んだ詐欺まがいのコマーシャルをよく耳にするが、どうか惑わされないでほしい。
歯科医療は、理論に基づいた科学の発展に呼応し、進歩している。
大学に残った同志が研究に汗を流し、我々野に下った臨床家はそれを普及する。
削らずに、抜かずに治す。そんなものはない。あればみんなそうしている。
長々と前置きしたが、
「この歯は既に、根の先まで菌に感染しており、既に体が異物として排除しようと頑張っている状態です。なので骨が溶けていくのを食い止めるには抜くしかないのです。」
茶色いのは歯石です。
長い説明の果てに、抜歯されたこの歯をみて、患者さんはすがすがしく納得されました。