「痛くて噛めない。」



原色虫歯図鑑

冠の端から歯の質がはみ出して見えている。


通常、冠は歯の輪郭にぴったりと沿って作る訳であるから、このような場合、歯が割れている事が多い。


一部にひびが入っているだけであれば、修復可能な事もあるが、亀裂が縦に深い場合、破折部を閉じる術はなく、口腔内の菌が骨にまわるのを防ぐためには抜歯以外に方法はない。




原色虫歯図鑑
かなり深いポケットができている。これは割れている部位から菌が中に入り、骨が溶かされている事を示している。




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冠を外した状態。


亀裂がよりはっきりわかる。


恐らく噛むたびに土台がくさびの様に歯に食い込んで、ついには歯を割ってしまったのだろう。


土台がくさびとなるのを避けるには、冠の縁を土台ではなくしっかり歯にかぶせる事である。(フェルール、帯環効果)





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土台を外すと、歯は完全に3つに割れていた。

この歯は修復不可能であり、抜歯となった。




「悪い所はしっかり治してほしい。」




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樹脂(レジン)が噛む面に詰められている。恐らく治療回数は1回で、10分もかからなかったはずだ。

当時、患者さんは早くて良いと感じたかもしれない。


でもこれがどうなるかわからない先生はまさかいないだろう。


だいたいこういうざっとした状態で完成となっている修復物で、最初からきっちり虫歯は除去されていたのだろうか?


レジンと歯の境が茶色く透けており、中では100%虫歯が広がっているだろう。


神経をとっている歯の為、痛みは感じない。







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レジンを除去していくと、中で虫歯が広がっている。










原色虫歯図鑑
虫歯に侵されている部分を明確に赤く染めだす薬で染色すると、まだまだ虫歯は広がっている。









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完全に虫歯をとりきると、もはや健全な歯質はこれしか残らなかった。

しかし、虫歯の部分を残すと、そこには確実に虫歯の菌が存在し、残る部位を浸食し続ける。

なにより虫歯の部位は噛む力に耐えうる強度が無い。



ここで歯を補強する為の土台の型をとり、次回土台をセット。













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土台がセットされ、かぶせる為に形を整える。かぶせの縁が歯の質にかかるように少し歯ぐきをカットしている。

このようにすることで、噛む力がかかり冠を揺らしても、土台を揺らすのではなく、歯全体で力を受け止める事が出来る。(帯環効果、フェルール)












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最終的に入れる冠を試適した状態。今回は4番目の歯であり、保険でも白いかぶせが可能。








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冠をセットして完了。


保険では、1番から5番目までが樹脂を用いた白い冠を入れる事が出来る。


樹脂の変色を嫌うならば、セラミックの冠を選択できるが、これは保険外でとなり、相場は10万~13万円ぐらいである。


高価なセラミックの土台と冠を入れれば、歯の寿命が延びるのではない。

科学と理論に基づき、より良くしたい情熱を持って適切な治療を施す事で、寿命が延びるのである。




















「歯が揺れていて、痛くて噛めない。薬で治して下さい。」

「根の治療なら一回で終わらせて下さい。」

「ブラッシング指導は要りません。」



まずはレントゲンで中の状態をチェックしてみましょう。


原色虫歯図鑑
一番奥の歯が、浮いた状態になっているのがわかる。

周囲一層の骨が溶かされてしまっている。典型的な歯槽膿漏の一つである。







一番奥の歯は、充分なブラッシングが難しく、噛み合わせの負担も一番かかりやすい。更に歯医者さんも一番治療しにくい部位である。


トラブルが起きた場合、一番大切なのは、なぜそうなったのかを考える事である。


歯磨きが悪くて虫歯になったのであれば、必ず歯医者さんで毎回磨き残しのチェックを受け、ブラッシングのコツを覚えなければ、何回治療を受けようが同じことの繰り返しである。ポケットを磨くという大原則は不変であるが、百人居れば百通りのクセがあり、コツがある。


歯医者さんは無駄に治療を長引かせる、とはよく聞く話であり、僕らも当然それを知っており、なるべく早く治療を終わらせてあげたいと思う。

なにより、誰もが限られた時間の中で日常生活を戦っており、その中で歯医者さんに時間を割く事、一日のスケジュールを考える上で時間を拘束される要素が一つでも増える事は非常に大きなストレスである。


が、しかし、何年もかけて悪くなった歯が、一回や二回で元どうりになるはずがない。




最近、歯科に限らずあらゆるジャンルで、労せずに結果が手に入る、という人間心理の弱みに付け込んだ詐欺まがいのコマーシャルをよく耳にするが、どうか惑わされないでほしい。



歯科医療は、理論に基づいた科学の発展に呼応し、進歩している。


大学に残った同志が研究に汗を流し、我々野に下った臨床家はそれを普及する。


削らずに、抜かずに治す。そんなものはない。あればみんなそうしている。










長々と前置きしたが、

「この歯は既に、根の先まで菌に感染しており、既に体が異物として排除しようと頑張っている状態です。なので骨が溶けていくのを食い止めるには抜くしかないのです。」



原色虫歯図鑑

茶色いのは歯石です。


長い説明の果てに、抜歯されたこの歯をみて、患者さんはすがすがしく納得されました。