「ろっこつレコード」をご存じ?
音を録音、再生する「レコード」のお話。
これは昔話だが、毎度おなじみの、埃をかぶりカビの生えた土留め色の当方の思い出話ではない。
なんとなれば、当方も知らなかった話だからだ。
先日、用事をしながらテレビをつけていた。
別に教養のためでも、趣味でも、勉学でもないが、偶々、某国営放送の、教育チャンネルだった。
「ロシア語」講座。
用事をしながら、観るでもなく、ぼんやりと聴いていると、「ろっこつレコード」なる、不思議な単語が耳に入ってきたのだ。
何の話?と思い画面に目を向けると、まさに「ろっこつレコード」が画面に映し出されていた。
ここで、すこしばかり、かび臭い大きい風呂敷を広げてみる。
昔「ソビエト連邦」という連邦国家があったのは、若い人でも知っているだろう。
今のロシアとその周辺国が連邦制度でつながっていた。
レーニン、スターリン、フルシチョフ、ブレジネフ、ゴルバチョフ・・・・・
既に、歴史の後ろの方に下がりつつあるソ連。
第二次大戦以降、朝鮮戦争からベトナム戦争を経て1980年代後半までが「米ソ冷戦」時代と呼ばれている。
基本的には、第二次世界大戦後の戦後ドクトリンの基盤となっていたのが、この冷戦。
米国主導の資本主義陣営(NATO)と、ソ連主導の共産圏陣営(ワルシャワ機構)が対立を続けていた。
「東西冷戦」とも呼ばれていたが、これは、ソ連側を「東側」、アメリカ側を「西側」と呼んでいたからだ。
そのソ連は、書記長に就任したゴルバチョフ氏が打ち出したレストロイカ、グラスノスチ政策を契機にして1989年に崩壊。
これで冷戦は終結するのだが、実質的にはソビエト連邦の経済的な破綻が最も大きな影響を与えた要素だ。
ゴルバチョフ氏は、自身の政策が最終的には崩壊につながると分かっていた確信犯だったと思う。
いずれにせよ、自身がリーダーを務める事になった、この国家。
その経済状況から、、どこかでいずれ崩壊するのは明白であり、その崩壊をソフトランディングをさせる事に腐心したのだろう。
誰かが引導を渡す必要があったのだ。
冷戦時代は、スパイの暗躍など、それぞれの安全保障をかけた、映画さながらの駆け引きが行われていた。
どうしても、破綻し崩壊したソビエト連邦が「悪者」にされがちだが、「イランコントラ」事件などは、米国が中東での覇権を握るため、共産圏側に武器を流して紛争を起こさせることにより武力行使の正当化を行うなど、資本主義陣営側も、まったくもってお行儀のよいものではなかった。
勝てば官軍だが、実質的な部分では、西側、東側、どっちもどっち、だ。
ソビエト連邦は、見切り発車した共産主義によって歪な形で誕生したものだった。
本来の「共産主義」は、資本主義の進化した結果生まれるものとされていて、資本主義社会が成長の限界に達した時にある意味では自動的に成立するもの。
詳しいことは専門家に委ねるとして、ソビエト連邦は、経済的に破綻したロマノフ王朝による支配に嫌気がさしたロシア国民に支持されて誕生したものであって、本来「共産主義」が想定しているものとは真逆の状態で誕生している。
いずれにせよ、ソ連が崩壊したのは事実であり、共産主義の実験、試みとしては完全に失敗した。
国営化、すなわち、経済活動を含めて、すべてを「役所」が行うため競争原理が全く働かず、あらゆる分野で「進歩」「進化」が停滞。
まあ、唯一対西側と言う「競争原理」が働いた軍事の分野だけは成長したが・・・・・
東側の各国は、明らかに経済力が劣り、「やはり資本主義の方が良いのでは?」との論調が生まれるのを嫌う。
このため、西側からの情報の流入を排除しようと躍起になっていた。
文学や映画、思想はもちろん、音楽も同じだ。
特に「ロック」などは、堕落した西側社会の象徴であり、唾棄すべきもの、だった。
その西側では、東側に対するメッセージよろしく、ステレオタイプ的に、抑圧、弾圧された若者が禁を破って「ロック」する、なんてPVが流行ったものだ。
一方の東側でも、抑圧、弾圧に対して、はみ出すアウトローが必ず出てくる。
中国にも、「ハードロックバンド」が登場した。
歴史の中に埋もれてしまっているが、1980年中ごろだったような記憶がある。
登場したが、即拘禁され再教育施設に送られたという、「ドラゴンズ」なるバンドだ。
以下、音源だけ、だが。
ほぼ、この状態の音源で売られていたもの。
海賊版とかコピーを重ねたもの、とかではない。
ちょっと、引くレベルの・・・・
レベル。色んな意味で。
構成は、ドラムとギターとバイオリン。
ともかく音質が悪く、ベースは居るのかいないのか、良く分からない。
なんと「アナーキー・イン・ザ・UK」らしきものもコピーしているので、相当の覚悟はもっていたと思う。
反キリストと言う部分では、唯物論には合致しているだろうが、「無政府主義」はまったくもってよろしくないだろう。
おそらくだが、彼らもSEX PISTOLSが反権威主義的なパンクである事は知っていただろう。
しかし、残念なことに、曲はカセットテープなどで隠れて入手できたが、歌詞は入手できなかったようだ。
もちろん、当時の中国では、英語にも触れる機会もなかっただろう。
「アナーキー・イン・ザ・UK」らしきもの、としたのは、歌詞が思いっきり、出鱈目なのだ。
中国語で適当に作ると言う方法もあっただろうが、英語っぽい雰囲気で歌っている。
本当にギリギリの線でやっていたんだろうな、と思えるのは、サビの部分だ。
「Cause I wanna be Anarchy」ですら、「あーあーあーあー、あーなーなー」と歌っている。
要は、全編絶叫ハミングなのだ。
この曲のメッセージ部分の歌詞も知らなかった可能性が高い。
もちろん、その他のオリジナル曲(と思われる)は中国語。
これはこれで中国語が解らないので、どんな内容が発信されているのかについては不明。
現在、音源しかないが「山水」がどうのこうの、のようなタイトルの曲があったので、歌詞はさほど反体制ではないように思えるが再教育施設送りとなったので、何かしらの問題を含むプレゼンだったのだろう。
これは、カーステで流していた所、同乗者全員から「気持ち悪くなるから消してくれ」と言われた代物だった。
大変残念ながら、彼らの音楽が発するメッセージが、どういう目的であったのか、は別にして、正直、社会に悪影響をおよぼす怖れがあったとは、まったく思えない仕上がり。
時代が悪かった。ドラゴンズは、生まれるのが早すぎた。
みたいな英雄譚ならば面白いのだろうが、これは、ちょっと・・・・。
ドラゴンズは、中国国内で発禁になったのだが、そもそも「発」されたものかもはっきりとしない。
「中国国内で発禁になった、中国初のハードロックバンド!」
センセーショナルな見出しに誘われて、レンタルレコード店で借りたのだが、西側でも売れたとか、話題になった、と言う記憶はない。
音源を聴けば然もありなんではあるが。
その後、バーンかミュージックライフあたりで、当局に拘束され、再教育施設に送られたとの小さい記事を見た覚えがある。
さて、本題の「ろっこつレコード」。
こちらも、当局に目を付けられたもの。
ドラゴンズが、中国国内でどのような媒体を使って自身の曲を広めようとしたのか判然としないが、「ろっこつレコード」は、ソ連でアングラで広がった媒体だ。しかも、時代がさらに遡る。
アングラと言っても、ジャンルとしての「アングラ」ではない。
正に、アンダーグラウンド。
または、ブートレグと言うか、ある意味これこそ本当の海賊版。
下手すりゃ、逮捕拘禁される禁制品だ。
「ろっこつレコード」は、その名の通りのレコード板。当時禁制になっていた、欧米の普通のポップスや、ロックをデュプして流通させていたものだ。
その意味でも海賊版と言える。
なぜ、「ろっこつレコード」かと言うと、見たままで骨が描かれたレコードなのだ。
正しくは、骨の絵の上に音が刻まれていることになるのだが。
上の写真では、手の骨レコード。
その他、頭蓋骨レコードなんかもある。
なぜ、こんなレコードが生まれたのか。
西側の音楽が刻まれたレコードの製造は、もちろん違法なので、当局に隠れながら行っていた。
このため、レコードに適した塩化ビニールが入手できず、考えられたのが、廃棄されたレントゲン写真を使ってレコードを作ることだった。
なので、「ろっこつレコード」と呼ばれるものができあがる。
レントゲンのフィルムは、塩化ビニールではないが、音を刻むには適していたのだろう。
燃えやすい、薄い、などの欠点はあるが、円盤にするために一定のサイズが必要で、そのサイズを満たしてかつ入手可能で、音を刻めるものとして、廃棄されたレントゲン写真のフィルムに目を付けたのだそうだ。
レントゲン写真をレコード盤形に切り取り、録音したと言う。
レコードの中心軸たる、真ん中の穴は、なんと、タバコの火を押し付けて開けたそうで。
まあ、タバコなんで、まん丸な穴はあくが、位置決めなどいい加減なもので、あきらか中心から穴がずれたものもある。
ただ、レコードの針のアームは左右に動くので、中心が多少ずれても、再生はできたようだ。
このろっ骨レコード。
抑圧された社会への高邁な反骨精神。
自由を求めて音楽を聴く!
みたく、なんとなく、レジスタンス的な、英雄的な臭いもするが、どうもそうではなく、茶目っ気、商売っ気たっぷりにやっていた様子だ。
放送で音を聴いたが、薄っぺらく音質も良くないのだが、ちゃんとレコードとして使えるもののような感じだった。
雰囲気、ソノシートのようなもの。
まあ、ソノシートも「ろっこつレコード」並に歴史上の物となりつつあるが。
1950年代から1960年代までの間、カセットテープに置き換わるまでの間、東側の人々が西側の音楽に触れる機会を提供したものだった。
これ、ともかく燃えやすく、もろいものだった。
そのうえ、大量生産されたものでもない。
現在、プレミアがついてとんでもない価格で取引されているそうだ。
うーん。
現時点をもっても、コレが、違法コピーであることには違いはないのだが・・・
歴史的遺物なんだろうなあ。






























