恐怖体験なんだヨー。
第四話:丹波へ
どこまでも道は続くが、ただ走っているわけではなく、目的地がある。
しかし、青看板には目的地のランドマークキーワードとして期待していた「丹波」やその近くの「和知」なる文字がなかなか出てこない。
そもそも「丹波」とか「和知」と言う単語が青看板に書かれているという保証もなにもない上、国道173号を直線で北上すれば、福知山とかそのあたりにぶつかるんやろうな、というレベルの知識で走っているだけだ。
ただ、いざとなっても、どこかで国道9号にはぶつかるだろう。
国道9号にさえ出れば生還はできるので、そのまま突っ走り続けた。
川西からは相当離れたと思う。
山を越えては、平野部に入る、を何度か繰り返して、次の山の手前。
不安がむくむくと起き上がってきていたところ、ようやく、右「丹波」なる青看板が見えた。
23:30 最初の青看板
その上、実は、「青看板を見落としたか」と思い、道を戻ったりしていたので、「丹波」の文字に出会えたのは既に23時30分を過ぎていた。
カーラジオから流れていたFMが「23時をお伝え」してから、すでにそこそこの時間が過ぎている。
23:30は、今の私には「結構な時間」と言えた。
おおよそだが、この辺りならば実家までは50分は覚悟が必要だ。
当然、明日は朝早くにインテックス大阪に入らないといけないこともある。
流石に、「時間、ヤバいかな?」と、不安になってきていたところで出会った、愛想も何もないが青看板に示された「丹波」の文字は、まさに救いの神だった。
と言うか、「丹波」は、あって当たり前で、それがある前提で走ってきた筈だったのだが、想定以上の距離を走ったので、焦らされた。
国道173号は、大阪、兵庫、京都の境目を走っていて、線形と境界が入り組んでいるため、府県を何度も出入りしながら走っている。
既に大阪からは離れていたが、兵庫と京都の境目を走っているので、その時点で兵庫県側にいたのか京都側にいたのかは覚えてはいない。
そこが何処かは分からないが、とにもかくにも「丹波」に向かう県道か府道に入ったのだ。
今から考えれば出鱈目な話で、土地勘もなく、ナビどころか紙の地図もない状態で、何度か行った事があるだけの土地の、特定の場所に、知らない道から、看板だけを頼りに行こうとしている。
これは常識的に考えれば無理なのだが、園子の実家の周辺では、結構あちこちと車を走らせていたので、実家を中心とした4~5キロ半径のどこかにあたればなんとかなるだろう、と考えていた。
あのあたりでは、太い道は何本もはないから、と甘く見ていたのだ。
良くある話だが「丹波」との指示に従い、曲がってみたものの、次に出てくる看板からは「丹波」の文字が消えてしまう。
要は、すでに丹波エリアに入っているという事なのだろうが、どこまで走っても、一向に記憶にある道には、ならず、あたらずで、先程の救いの神からは早々に見放されて、またぞろ不安が膨らんでくる。
街灯も人家もない道をしばらく走り続けた先で、ようやく家の明かりが見える場所に出た。
出たのだが、そこで丁字路にぶち当たった。
どこまでも続く、知らない道のその丁字路には、今や唯一の頼りの青看板があった。
23:45 分岐
その青看板には、左「国道9号」、右「南丹」か「園部」か何か忘れたが、ともかく右の矢印側には「丹波」ではないが、見たことのある土地の名前が書いてあった。
今から考えれば、ここでの正解は間違いなく左の「国道9号」だ。
園子の実家はあきらめて、国道9号に出るべきだった。
しかも「あきらめる」と言っても実は、何度も国道9号を経由して園子の実家に走った事があるのだ。
園子の実家に行くにしても、国道9号でよかったのだ。
明らかに正常な判断力を失っていた。
時間も遅い。これは、つまらない、ちょっとした冒険心でもない。
何か目には見えない力が、私を「右」に引きずり込もうとしている。
もし、目に見えない力以外で、右を選択する要素があるとすれば「右」に繋がる「見た事」のある土地の名前の存在。
何丹だったか、丹何だったか、は覚えていないが、「丹波」の「丹」と言う漢字が書かれていたのが判断に影響を与えた。
結果、それが災いとなるのだが、結局、右折してしまったのだ。
右折してしばらくは、人家も続き、道も広かったのだが、私に気付かせまいとしているか如くで、ほんの少しずつ、少しずつ道幅は削られていき、いよいよ細くなっていく。
気づいたら住宅街の道レベルになっていた。
左右の車窓に、灯りの消えた家がぽつぽつと流れて行く。
10分くらい走っただろうか。
時計は0:00になろうとしている。
00:00 行燈
すると、前方に、不思議な光景が見えてきた。
集落で何かの神事、祭り、祀り、でも行われていたのか、それとも単に夜廻りでもしているのか、「行燈」のようなものを持った集団の列が道路の右側にいる。
暗闇の中で、ポツポツと前後に揺らめく「行燈」。
今で言えば「映える」幻想的な風景。
誰もがスマホを取り出し、インスタに即UPしただろう。
そんな風景も、他にカメラでも構えた人が沢山いれば別だが、今ここには、私とタウンエースと、その行列しかいない。
さらに、自分の置かれた「ほぼ迷子」の不安な状況からは、幻想ではなく、不気味な感じが圧倒的に勝っていた。
真っ暗闇の中、何人もの人が「行燈」を手に等間隔に離れて行列をなしている。
今にしてもそれが何の行列だったのかは分からない。
真夜中、おそらく0:00と言う時間に何かしらの意味があったのかも知れない。
第五話:行燈 に続く

