今日から運動会(うんどうかい)の練習(れんしゅう)が始(はじ)まりました。
しんちゃんは、走(はし)るのがとても嫌(きら)いです。
なぜ嫌いかというと、いつもビリだからです。
クラスで一番 おそいのです。
いっしょに走った友達がゴールしてからも、一人であとから走るので、
何人かの友だちに
「おい。歩くな」
「カメよりおそいぞ」
と、からかわれることもあります。
もちろん、
「がんばれ」「足を高(たか)く上げると速(はや)く走れるよ」
とか
「ももをしっかりあげて」
と、応援(おうえん)してくれる友達(ともだち)もたくさんいます。
けれど、みんなと離(はな)れて後(うし)ろからついていく自分(じぶん)の姿(すがた)がたまらなくいやなのです。
だから、
おそいのがいやなのです。
走りたくないのです。
しかも、ふだんから走らないと決めているところもあるのです。
つかまえやかくれんぼをしていて鬼(おに)になってもゆっくりとしか走らないのです。
全力で走りたくないのです。
でも、心のどこかで「早く走れるようになりたい」とも思ってるのです。
ある日の放課後。
しんちゃんが砂場(すなば)でひとりで遊(あそ)んでいると低学年(ていがくねん)の子が何人(なんにん)かでかけっこをしています。
五・六人で交代(こうたい)ごうたいに競争(きょうそう)しています。その中にいつもビリの子がいます。でも、その子は交代(こうたい)しないで、ずっと走っているのです。
「あんなに走ったら、よけいに疲(つか)れてもっと おそくなるなぁ」と思(おも)って見ていました。
すると、その子がしんちゃんの近(ちか)くに来て「おにいちゃん。どうしたら早く走れるの。教(おし)えて」と、聞(き)いてきました。
実(じつ)は、この子はテドゥウだったのです。
テドゥウとは、リスににた生(い)き物(もの)で、子どもがこまったり悲(かな)しんだりすると角(つの)で感(かん)じ取(と)り、近(ちか)くに現(あらわ)れて何(なん)とか解決(かいけつ)しようとする生き物です。姿(すがた)を消(け)したり空(そら)を飛(と)んだり、今回(こんかい)のように姿(すがた)を変(か)えることもできます。
しんちゃん以外(いがい)の子どもには見えません。声(こえ)も聞こえません。どこかで水の流(なが)れるような音(おと)がするだけです。
しんちゃんは、先生(せんせい)や友(とも)だちの言葉(ことば)を思(おも)い出して、
「足を少(すこ)しでも前(まえ)のほうに出(だ)してごらん」
「つまさきでけって、すぐに足を曲(ま)げてごらん」
「ふとももを高く上げてごらん」
「太(ふと)ももをあげるとき、はやく上げてごらん」
「太ももを胸(むね)につけるようにして歩(ある)く練習(れんしゅう)をしてごらん」
と、いつも言(い)われていることを全部(ぜんぶ)教(おし)えてあげました。
すると、
「ね。お兄(にい)ちゃんもいっしょに走ってくれない」
とせがまれました。
しんちゃんは、しかたなくいっしょに練習(れんしゅう)することにしました。
毎日(まいにち)、放課後(ほうかご)になるとその男の子はしんちゃんを待(ま)っていっしよに走ります。
初(はじ)めは、その男(おとこ)の子より少(すこ)しはやいしんちゃんでしたが、一週間(いっしゅうかん)もするとずいぶんはやくなり、ゴールして男の子を待(ま)つくらいになりました。
そして、一ヶ月後(いっかげつご)、運動会の日です。
しんちゃんは思いっきり走りました。
一等(いっとう)にはなれなかったのですが、ビリから二番(にばん)でした。友達(ともだち)といっしょにゴールできました。
しんちゃんは生まれて初(はじ)めて走ることの楽(たの)しさを知(し)りました。
青(あお)く晴(は)れた空の上で、テドゥウがニコニコしてしんちゃんを見ていましたが、しんちゃんの笑顔(えがお)を見ると山のほうに飛(と)んでいきました。
カットは,ポックルさんです。
おしまい
