私は塾の授業で、語順や複数形(冠詞)など日本語とは異なる英語の "建付け” を 「英語モード」 と呼んで折に触れて生徒に意識させるようにしています。「日本語モード」 のままで英語に対応しようとするケースがとても多いのです。「英語脳スイッチ」 という呼び方こそ違いますが、本書の趣旨は "我が意を得たり" という感じで一気に通読してしまいました。取り上げられている26項目はどれも興味深いものですが、私にとってとりわけ印象的だったのは第11講の have についての解説です。

 

第1講 文法の違いは「ものの見方」の違い

第2講 英語と日本語では重視するものが違う

第3講 話し手責任の英語・聞き手責任の日本語

第4講 カメラになって外を見る日本語・外から自分を見る英語

第5講 言語以外にも現れる「捉え方」

第6講 幽体離脱の英語表現

第7講 時間も日本は「臨場感」、英語は「俯瞰」

第8講 「数えられる名詞」と「数えられない名詞」が見る風景

第9講 同じ「見る」なのになぜsee, look at, watch?

第10講 「ある・いる」でも there is 構文を使わない場合

第11講 「ある・いる」でも have を使う場合とその理由

第12講 日本語の会話は「共感」で進み、英語の会話は「why」で進む

第13講 英語は「原因」が好き・日本語は「不可抗力」が好き

第14講 「英語脳」が生み出す「無生物主語構文」という発想

第15講 失礼にならないように「原因や状況」のせいにしちゃおう

第16講 can は「状況のせいにしてしまう」言葉

第17講 英語話者はなぜ must より have to をよく使うのか

第18講 助動詞の持つ「意味」と「力の用法」と「判断の用法」

第19講 まずは知っておこう、「will の根っこ」は「未来」ではない

第20講 「will+動詞原形」よりも「will+進行形」の方が丁寧?

第21講 「たられば」の気持ちが丁寧さにつながる仮定法

第22講 pleaseには「逆らえない圧力」がある

第23講 アメリカ人はイギリス人よりもpleaseを使わない?

第24講 メタファー:人はなぜ「時間」という概念を理解できる? 

第25講 on世界:Russia's war on Ukraine はなぜ in Ukraine じゃない?

第26講 文法にも多義はある:不可算名詞が「機能」も表すわけ

 

have については、小西友七さんが 『英語のしくみがわかる基本動詞24』 のなかで次のような図で "コアイメージ" を説明していました。

 

 

 

これに対し、時吉さんの説明は次のようなものです。

 

「自分という領域(領土・領空のイメージです)の中に存在している」 という見方で have を見つめ直してみましょう。 (同書 p.98)

 

これは "Do you have wolves here?" を説明するなかで出てきました。「主語が関わっている領域内に何かが存在する」 という have の働きから 「(あなたが関わっている)このあたりってオオカミが住んでいるの?)」 という意味が生じるわけです。このように捉えると 「客観的な出来事の存在を示す」 "There is (are) ~” 構文との違いがよく分かります。「ごめん、今夜パーティがあるんだ」 と断りを入れる場面では 「私が関わって」 いることから "I have a party tonight." と言わざるを得ません。

 

小西さんの図であれば、オオカミの話は "無意志" の、パーティーの話は "意志” のそれぞれの「持っている」 に分類されるものですが、今回の時吉さんの説明によって "have" のコアイメージの腹落ち感がさらに高まりました。