著者の横山明日希(よこやま・あすき)さんは、「歌のお兄さん」 ならぬ 「数学のお兄さん」 として数学の楽しさを全国に伝える活動をされている方だそうです。本書では、「数式」 の "美しさ(第1章)"、"楽しさ(第2章)"、"すごさ(第3章)"、"神々しさ(第4章)" という4つの視点を通して数学の世界を紹介していますが、その試みは大いに成功していると思います。

 

今回取り上げた 「タクシー数」 は、第4章で "神々しい" 数式のひとつとして紹介されていますが、世俗的な名前とは裏腹に数の神秘を深く感じさせます。ネーミングの由来は 「インドの魔術師」 の異名を持つ数学者シュリニヴァーサ・ラマヌジャンにまつわる次のようなエピソードによるものです。

 

ラマヌジャンが体調を崩し寝込んでいたとき、彼の師匠であるイギリス人のハーディが見舞いに訪れた際 (中略) ハーディは乗ってきたタクシーのナンバーが特に意味を持たない数字である1729であったということをラマヌジャンに話しました。しかしそれに対してラマヌジャンは、即座に 「1729は2つの立方数の和で、さらに2通りの形で表すことができる最小の自然数です」 と答えました。(同書 p.226)
 

タクシー数は、Ta(n) として表され、「2つの立方数の和として n 通りに表される最小の正の整数」 と定義されるといいます。現在までに分かっているタクシー数は Ta(1) から Ta(6) までの6個です。それにしても、Ta(2) の "1729" を何気ない会話の中から瞬時に見出したラマヌジャンが "神々しく" 思えてなりません。