現在放映中のNHKの朝ドラ 『エール』 は作曲家古関裕而さん(1909-1989)をフィーチャーしたドラマです。私が真っ先に思い浮かべる古関さんの曲といえば 「オリンピック・マーチ」 です。この曲を聞くたびに、1964年10月10日、秋晴れの空の下、オリンピック開会式における日本選手団の入場シーンが鮮やかに甦ります。しかしそれ以外の曲はというと、私の両親がテレビの懐メロ番組で楽しみにしていた印象しかなく、自分から進んで聴くことはありませんでした。

 

これに対し、古関さんとほぼ同時代に活躍された作曲家である服部良一さん(1907-1993)については、何故か学生時代から心を惹かれるものがありました。古関さん同様の懐メロの範疇にありながら、ポップスの香りを感じる曲が多かったからなのかもしれません。彼の音楽人生を偲ぶ本のサブタイトルにつけられた 「昭和のジャズ&ポップス史をつくった男」 というフレーズがそれを物語っているようです。

 

 

彼の曲の中で私は 『蘇州夜曲』 が一番好きなのですが、本書によれば、服部さん自身も 「自分の作品の中でいちばん好きな曲は何か」 という質問に対してしばしばこの曲をあげていたといいます。昭和15年の映画 『支那の夜』 のために作られた曲ですが、「蘇州」 というタイトルがついているものの、印象深いあのメロディーは、中支を旅行していた服部さんが 「杭州」 の西湖を目にしたときに浮かんできたものなのだそうです。上掲書のなかで服部さんは、作曲について次のような言葉を残されています。

 

  作曲というのは、いわば魔力のようなものが働いて、曲想が浮かぶのだ。天から授かったもので、どこからともなく妙音が耳に伝わり、湧きだした音楽の霊感が流れ出して、作曲した音楽ではなく、ミューズの神から、天楽の響き、天与の妙音を授けられるもので、作曲家はその神の声を伝達するために五線紙に記譜する。つまり、天の声を通訳する代言者に過ぎないのだ。(同書 p.4より)

 

『蘇州夜曲』 のメロディーも、杭州の西湖を目の前にして佇む服部さんに、"天の声、神の妙音" として "降りてきた" ものだったのでしょう。今回 YouTube で色々な 『蘇州夜曲』 を堪能しましたが、特に印象深かったものを備忘録としてここに貼っておくことにします。

 

Ann Sally 版】

今回初めて知った歌手の Ann Sally さん。原曲の時代の雰囲気を今に伝えているように感じます。モノクロの画像にも素敵にマッチした歌声です。

 

 

【小田和正版】

図書館で借りた 服部良一 ~生誕100周年記念トリビュート・アルバム~ で聴いた小田和正さんが歌う 『蘇州夜曲』 を YouTube で探していたら "神風" のお名前での投稿がありました。小田さんらしい落ち着いた雰囲気が感じられます。

 

 

Sandii 版】

この方も今回初めて知った歌手兼HULA伝道師の Sandii さん。リズミックなアレンジによってこの曲の可能性がぐっと広がった感じがして私のお気に入りになりました。

 

 

【インストルメンタル版】

二胡奏者 WeiWei Wuu さん をフィーチャーしたジャズスタイルでの演奏です。二胡の音色を聴くだけで "中国" を感じてしまうのは不思議です。