トランプ大統領が選挙キャンペーンの時からこだわっていた 「メキシコ国境との間に壁を建設する」 問題が新たな局面に入ったようです。壁建設費用を確保するために 「国家非常事態(the national emergency)」 を宣言したトランプ大統領と民主党との対決姿勢が鮮明になりました。

 

この非常事態宣言について、The Guardian に National emergency: Trump's 'clear abuse of power' faces torrent of lawsuits という記事が載っていました。明らかな 「職権乱用(abuse of power)」 によって、トランプ大統領は訴訟の渦(a torrent of lawsuits)に直面することになるだろうと述べています。

 

日本でも憲法改正論議のテーマとして一時取り上げられたことがありますが、非常事態宣言により、立法(議会)を通さなくても、行政の長(アメリカであれば大統領、日本であれば内閣総理大臣)に、当該非常事態に関する重要事項を決定する権限が与えられます。今回の場合は、議会では十分な壁建設費用の予算が認められなかったトランプ大統領が、非常事態宣言をすることで、「自然災害用予算から資金を捻出(divert funding from natural disasters crises)」 しようとしているようです。ここでいう fund とは国民の税金にほかなりません。

 

先の中間選挙で、アメリカの上院はトランプ大統領の共和党、下院は民主党が多数を占める勢力バランスとなりました。民主党は憲法違反として法廷闘争に持ち込む構えをみせていますが、非常事態宣言は両院の合意がないと無効にはできないようです。しかし、上院(共和党)の中でも批判的な意見があるようなので今後の推移が注目されます。

 

ところで、職権乱用(abuse of power)で使われている abuse は "ab (= off, away from) + use" という語源から "to misuse, misapply (power, money etc.)" という意味が出てくるようですが、一方で "attack with harsh language, revile (辛辣な言葉で攻撃する、罵る)" という意味が 1600年代頃から生まれてきたようです。今では "abused child" といえば 「虐待を受ける子供」 のことです。

 

日本では、千葉県野田市の小学4年の女子児童が父親から虐待を受けて死に至るという痛ましい事件が起きました。まったく異なる文脈ではありますが、奇しくも日米において、"abuse" で表現される事件がほぼ同時期に起きていることから、それが現代を暗示する言葉なのかもしれないと感じました。うまく説明することはできませんが、どちらも何かが大きく外れているような印象を受けるのです。シェイクスピアのハムレットに出てくる The time is out of joint. という台詞が思い出されます。