デザインのデザイン/岩波書店
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の中で出会った言葉です。

 

製品はそのメ-カ-がフランチャイズとしている市場の反映であり、その欲望のレベルや方向がそれらの製品を通して浮き彫りになると考えられる。

(同書p134より)

 

世界の高級セダン市場では、日本車ではなく、BMW・アウディ・ベンツといった欧州車の人気が高い理由を、こういうクラスのクルマに対する日本人の意識水準がドイツ、ヨ-ロッパに及んでいないからではないかと著者の原研哉さんは指摘します。それは性能とかデザイナ-個人が頑張って解決できる問題ではない、もっと総合的な品質、いわば「品位とか品格」とでも形容すべき性質の問題であるとも言います。

 

ヨ-ロッパ型ブランドが強靭な意思で保ち続けている個性は、そうした製品の母体となる市場の「欲望のレベル」に根ざしているとする見方は、車に限らず、サッカーやF1のようなスポーツでも、オペラやバレーなどの音楽・芸術の領域でも同じように当てはまるように思います。

 

GK Design Group の栄久庵憲司会長は、デザインを「コトをモノに置き換える作業」と表現されましたが、「コト」の背後には、それが依って立つ市場なり文化なりの価値観が知らず識らずのうちに入り込んでいると考えるのは自然です。人間の意識に対する無意識の影響力のようなものかもしれません。

 

Desire(欲望)の語源はラテン語の”sidus”=星(star)で、”de+sider”=星が見えなくなる、から「惜しむ、欲する」という意味が出てきたといいます。「欲望(Desire)」という言葉には、遥か遠い天空に思いを馳せる眼差しが込められているようです。

 

このように考えると、ブランドというものは虚構ではなく、まさに生活意識(ライフスタイル)を象徴するものだといえます。目に見えるエンブレムがブランドなのではなく、その背後に潜在する欲望のレベルこそがブランドの源なのだと思います。