抗ガン治療=髪の毛が抜けると思っていた。
まつ毛も眉毛も鼻毛も腕毛もすね毛も、
すべての毛がぬけることを
想像していなかった。
ある時、外を歩いていてあまりにも眩しいので
まつ毛がないことに気が付いた。
晴れた日はサングラスが必要になった。
ある時は鼻水がよく垂れてくるので、
よく見たら鼻の穴の中に毛が全くなかった。
鼻毛フィルターがないと埃を吸ってしまうので
手元にあった日本の使い捨ての白いマスクをして
歩くことにした。
コロナの流行の前は、マスクなんて病院で医者が
時々しているもの
くらいの認識だった。
以前風邪をひき、マスクをして出社したところ
職場の上司に「そんなみっともないものは外しなさい」
と言われた。
忙しい職場のために出社したのに、そう言われては仕方ない、
その場で帰宅した。
マスクとは「みっともない」「怪しい」ものなのである。
マスクをして外に出ると
みんなぎょっとした顔で私の顔を見る。
数日つけてみたけれど、強烈な視線を感じる。
仕方ないので、紺色の布でマスクを作って着用した。
このほうが白いマスクよりもずっと注目度が低かった。
オーストリアでは、ブルカやニカブを排除する目的で
2017年から顔を覆うことを禁止している。
一度、路上で私のマスク姿を見て、すれ違いざまに
「顔を隠すのは禁止されてるんだよ」
と怒鳴ってきた若い女性がいた。
今はコロナのおかげでマスクが
ヨーロッパでの市民権を得た。
