8篇から成る短編小説集なのだけれど、2つめの『失はれる物語』がやばかった。

夜中に朦朧としながら読んでいたのに、 

あまりに衝撃的な内容すぎてどんどん目が覚めてしまい

結局朝まで寝付けないほどのダメージを受けてしまった。

 

 

人差し指の感覚しかない植物人間を主役にする作家が他にいるでしょうか?

さすが乙一。

 

 

不慮の事故から、何も感じない完璧な暗闇の中で一生を過ごす主人公。

脳は思考力だけ残している。

動くのは人差し指がほんの少し。

その描写がリアルすぎて鳥肌すら立つ。

  

 

『考える肉塊』と自身を表現する主人公。

 

 

私は主人公を尊敬しました。

暗闇の中で考えることしかできなくなるなんて、私には耐えられない。

彼だって耐えられないだろうけど、だからと言って自殺することすらできない。

脳は考えることをやめない。

 

 

「もし私だったら・・・・・」

 

 

私は感覚がなくなる演技なんてできない。

愛する人が介護に苦しんでいたとしても、暗闇の中に一人ぼっちなんて耐えられないと思う。

必死に人差し指を動かし続けてしまっただろうと思う。

 

 

でも彼は愛する人のために、感覚が完全になくなるという演技を完璧にこなした。

結果、彼は長い長い一生を、音も色も時間すらも何もない暗闇の中で過ごすことになった。

ただの『考える肉塊』となって。

 

でも

 

自分がどんなに孤独になっても、愛する人を救った彼は幸せだのかもしれない。

 

 

ただ想像するしかなかった。

生きるのに忙しく肉塊となった自分のことを思い出す暇さえないというのであれば自分は嬉しかった。

彼女は物言わぬ塊に関わっていてはいけなかった。

忘れてしまっているということが最も望ましいことだった。

 

 

完全に性善説な生き方だと感じ涙が出ました。

もしすべてを無くしどんなに孤独になったとしても、私も性善に生きたい。

強く思った物語です。

 

 

悲しくてしばらくひきずって、眠るのが恐くなりそうだけれど

そのくらいすごい作品です。



いつも人はサヨナラを用意して生きなければならない 

孤独はもっとも裏切ることのない友人の一人だと思うほうがよい

愛に怯える前に、傘を買っておく必要がある

どんなに愛されても幸福を信じてはならない

どんなに愛しても決して愛しすぎてはならない

 

愛なんか季節のようなもの

ただ巡って人生を彩りあきさせないだけのもの

愛なんて口にした瞬間、消えてしまう氷のカケラ

 

サヨナライツカ

 

永遠の幸福なんてないように

永遠の不幸もない

いつかサヨナラがやってきて、いつかコンニチワがやってくる

 

人間は死ぬとき、愛されたことを思い出すヒトと

愛したことを思い出すヒトにわかれる

私はきっと愛したことを思い出す

 

○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●

 

 

今まで読んだ本の中で一番涙が止まらなかった、思い出の本。

というか何度読み返したかもう数えられないほどだけれど、その度に感銘を受けて気づくと泣いているというものすごい本。

 

この本を題材に卒論を書けといわれたら一日で完成できる自信がある。

 

私はこの本を読むまで、恋愛とは女にとって、愛されてこそ価値のあるものだと思ってた。

外見と内面、芸を身に付けて男を惹きつける。

価値のある女、愛される価値のある女であることが役目なのではないかと。

 

 

”私はきっと愛したことを思い出す”

 

   

きっと私もそうだと思う。

むしろ愛したことしか思い出さない気がする。

今までの価値観が一気に変えてしまった。

 

自分の人生がその人一色で染まってしまうような恋。

なのに離れなければならない。

 

とても官能的なストーリーで、一見主人公の豊と沓子は肉体関係でしか繋がっていないように見えるのに

実は何よりも純粋な心でお互いを愛してしまった。

 

 

ー何でこんなに悲しいの?どうしてダメなの?

 

 

どうしても納得のいかないストーリーに最初は怒りすら覚えたけれど、

こういう形の愛もあるんだと何度も読むうちに思い直した。 

 

相手の幸せを願う。

 

辛くても、寂しくても、忘れられずに悲しくても、会えなくても、恋しくてどうしようもなくても

相手の幸せのために、遠くから想うだけ。

 

確かに愛し合った時間があったという事実と、

それを忘れずに大切に想い続けることで人生が意味を帯び、幸せを感じられる。

  

いろんな人に薦めて読んでもらったけれど、特に年配の男性の方はこの物語に共通するような経験をしている人が大変多いということに驚いた。

 

 

「最愛の人」

「狂気の彼女」

「純心で好きな人」

「soul mate」

「真実の愛」

 

 

人によってそれぞれ表現方法は違うけれど、一緒に添い遂げられなかったからこそ、

いつまでも忘れずに色褪せない思い出として心に在り続けるのかもしれない。

 

 

「辛くて、苦しくて、本当に思い出したくないような関係だったけれど、

 確かに彼女のことを思い出さない日は一日もないんだ。

 死ぬときに、きっとあんなにツライ思い出だけれど

 ないよりはあった方が良かったって思えるはずだよ。」

 

 

「彼が結婚してしまって、もうどうにもなくなって、

 私はどうやって生きたらいいのか分からなくなったけど

 だったらずっと彼の幸せを願う人生を生きればいいって今は考えてる。」

  

  

「9年間忘れられなかった。

 今も彼女と過ごしたような情熱と安息の時間を求めて恋愛を求めるけど

 そんな場所は簡単に見つかるものじゃないね。」

 

  

 

この本を読んでもらったことで、たくさんの人から貴重はお話を聞けた。

普段ふざけて真剣な会話なんてしたことない人でも

みんな本気で誰かを愛した経験があるって知って嬉しかった。

 

 

 

  

「こんなの読ませてずるいよ。」

  

 

 

 

愉快なものではないけれど、でも私は知って意識して欲しかった。

知らないよりは、知っているほうが彩ると思った。

 

 

私もどうせなら深く深く相手を愛して、

自分よりも相手の幸せを願えるような女になりたい。

 

 

ずっと辛くて悲しかったとしても、死ぬときにないよりはあって良かったと思えるはず。

二人一緒にいた透明な時間を思い出して、嬉し泣きして終われると思う。

 

 

愛なんか季節のようなもの

ただ巡って人生を彩りあきさせないだけのもの

 

 

忘れて切り替えることだけが強さじゃない。

こんな言い訳しなくても、堂々を思い出を大切にするのだって十分立派だ。

 

 

そう思わせてくれた作品。

私にとっては間違いなく不朽の名作、一生影響を及ぼし続けるだろう小説。

 



そう、悔恨は有害だ。

しかし、そいつは人を殺しはしない。

ところが、絶望は瞬時のうちに人を殺すんだ。






Ernest Hemingway 異郷