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おすすめ度: ☆☆☆☆☆ (Excellent)
小津安二郎監督、笠智衆、原節子主演の「晩春 (Late Spring - 1949)」です。来週にはアメリカでは彼の晩年の5作品がボックスセットにて販売されるので(その記事はここ)、今は非常に興奮中(笑)。という訳で、興奮冷め止まぬ中、彼の作品を紹介したくなったのです。

私は今ではどっぷりと小津に傾倒してますが、実は彼の作品は全部で6本しか観ていないのです。と言うは、私は日本にいる時は彼の作品を含め邦画はほとんど見ずで、彼の映画の魅力に遭遇したのはアメリカに来てから。こちらで販売されているDVDは以下の6作品しかなく、見れる作品は全て見たという訳です。(この6作品に来週販売される5作品とで計11作品と、ようやくアメリカでも小津の作品が充実してきた感じです。)
浮草物語 (A Story of Floating Weeds - 1934)
晩春 (Late Spring - 1949)
麦秋 (Early Summer - 1951)
東京物語 (Tokyo Story - 1953)
お早よう (Good Morning - 1959)
浮草 (Floating Weeds - 1959)

「東京物語」は既に一度レビュー済みで、今回はそれ以外の5作品からと考えたのですが、私にとってどれも素晴らしい作品で悩みましたが「晩春」を選びました。選んだ理由は、この作品は「東京物語」と同じく、最後に何とも言えない哀愁が漂う小津映画の傑作ということ。そしてある意味では「東京物語」より、より深い悲哀感が出ていると思ったからです。

早くに妻を亡くした大学教授の曽宮周吉(笠智衆)は娘の紀子(原節子)と鎌倉で二人で住んでいた。紀子は戦争中に無理をして身体を害したため二七歳の今も父につくし、嫁に行く気は全くなかった。最近は紀子も元気になり、娘の本当の幸せを考える周吉は、なんとか紀子に嫁に行って欲しいと思うようになる…。

私は最近、映画の本当の良さを知るためには2回観るべき、と思うようになってきた。もちろん1回観て素晴らしいと思う映画は沢山あるが、一回目はどうしてもストーリを追う事に集中してしまうので、ストーリを知った上で二回目に見た時に深く感動することも多い。この作品はそんな一本だった。

映画の途中、父親とずっと二人で過ごしたいと思う紀子が、父親が再婚すると知らされ、彼女の感情が少し険悪になるところがある。この映画を最初に見た時は、この場面に少し違和感さえ感じてしまった。と言うのは、小津の映画はいつも淡々と物語が進み、まるで波のない清流を下るかのようなイメージだったのが、この映画は少し荒い波のある川を下っているような雰囲気になったからだ。彼女が父親をにらみつけるような演技も、感情の起伏が激しく、少し小津の作品らしくない雰囲気さえした。でも二回目に見た時は、そんなストーリや感情の起伏が逆にラストの哀愁感を本当に盛り上げていると思ったのだ。

そんな中で、周吉の実妹の田口まさ(杉村春子)が、がま口を拾って喜ぶところや、結婚相手がゲイリー・クーパーに似てる、似てないと紀子と友達の北川アヤ(月丘夢路)が語るところは、なかなかユーモアがあっていい。最近再婚して紀子に不潔と言われてしまう小野寺(三島雅夫)もいい感じで、脇役の一人一人が本当にいい味が出ている。そして原節子はこの小津の作品でも光っているが、それに優るとも劣らないのが笠智衆の演技。この作品での娘を嫁にやり、歓喜と悲哀感に揺れる父親像は本当に素晴らしい。

「東京物語」より深い悲哀感が出ていると思ったから、と言ったのは、「東京物語」はゆるやかな下り坂をころがっていて、気が付いてみるといつの間にかラストの深い悲哀感に到達している感じ。でも「晩春」は「仲の良い父娘(高)」→「険悪な状況(低)」→「娘の結婚(絶頂)」と、坂を上り下りしている感じ。そして最後は予想はしていたとは言え、それを上回る一人になった寂しさがずっしりと訪れる。この一瞬の歓喜の絶頂点から一気に悲哀感に浸ってしまう落差の激しさが、「東京物語」よりも悲哀感を深めている気もするのだ。

ああ、「晩春」のラストシーンも、もう涙なしには見られない…。