雨が降る夜 | 行く河の流れ

行く河の流れ

行く川のながれは絶えずして、しかも本の水にあらず。よどみに浮ぶうたかたは、かつ消えかつ結びて久しくとゞまることなし。

 あの時も雨が降っていたっけ。

 君がずぶ濡れになりながらも、家族に「仕事だ」って嘘をついてまで朝の7:00に僕のアパートに来た日。僕はまだ布団の中、ドアベルが鳴るからびっくりしたんだ。

 イチローがシーズン最多安打の記録を達成した日の翌朝、フランスパンのお使いにやる時「早く帰ってきてね!」って健気に迷いもなく土砂降りの中送り出した日。フランスパンと一緒に滅多に買わないスポーツ新聞も買って帰ったんだ。

 僕がアパートを引き払う数時間前、君は喫茶店で窓に映る雨粒を見ながら「先に帰っておくね」って帰っちゃった日。君の背中に気持ちを感じたんだ。

 さっきから降り出した雨が木々の葉っぱを打つ音で僕に話しかけてくる。窓を開けると幾分冷やされた風が僕を誘う。
「あせるなよ。明日も雨だろう?」
 誰に向かって言っているのか分からないその声は、夜の雨音によってかき消され、僕の頭の中に響いていた。